Newsletter Volume 32, Number 1, 2017

受賞者からのコメント

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ベストポスター賞を受賞して

鳥取大学大学院医学系研究科 染色体工学研究センター
香月康宏

 この度,「ヒト薬物代謝予測のためのマウス人工染色体とゲノム編集によるヒト化CYP3Aラットの作製」という題目で第31回日本薬物動態学会ベストポスター賞を頂き,大変光栄に存じます.選考委員の先生ならびに学会関係者の皆様に,この紙面をお借りして厚く御礼申し上げます.

 我々は本研究成果の基盤となる人工染色体技術を開発し,薬物動態研究等に利用できる汎用的なヒト化薬物代謝モデルマウスの開発を行ってきました.人工染色体技術は巨大な遺伝子や複数の遺伝子を導入できるものの遺伝子破壊はできません.これまでモデルマウス作製にはマウスES細胞におけるジーンターゲティングにより遺伝子破壊を行ってきました.このプロセスは1-2年がかりの作業となり,ヒト化マウスを作製するとなれば,さらに1年以上の期間を必要とします.近年,TALENやCRISPRをはじめとするゲノム編集技術が開発され上記の遺伝子破壊のプロセスが格段に早くなりました.ゲノム編集技術はマウスだけでなく,ラットや他の動物種にも広く適応できることから,遺伝子破壊や遺伝子ノックインの有用なツールとして期待されています.

 一方,ラットは動態研究や毒性研究において,多くの製薬会社で利用されてきたことから,有用な実験動物であると言われていますが,遺伝子破壊や複数遺伝子導入の技術がラットに適応することが難しかったために,これまではヒト化薬物代謝モデルラットは作製されてきませんでした.本研究発表では人工染色体技術をラットに世界で初めて適応して,ヒトCYP3A遺伝子クラスターをラットに導入することに成功しました.さらに,対応する内在のラットCYP3A遺伝子をゲノム編集技術を用いて破壊し,完全なヒト化CYP3Aラットモデルの作製に成功しました.この完全ヒト化CYP3Aラットモデルにおいては遺伝子発現や薬物動態がヒト型化されており,薬物動態研究のための有用なツールとなることを示しました.我々の開発したマウスやラットが薬物動態研究や毒性研究に少しでも役立てばと思っておりますので利用してみたい方はご連絡いただければ幸いです.

 最後になりましたが,本研究において,ゲノム編集に関しては広島大の山本先生・佐久間先生,ラット作製に関しては生理学研究所平林先生,薬物代謝試験は千葉大学の千葉先生・小林先生,大鵬薬品工業の久世先生,薬物代謝酵素のタンパク質定量解析は,新日本科学の千田先生・墳崎先生との共同研究で行われたものであり,この場を借りて厚く御礼申し上げます.また,本研究成果は研究室の長い歴史の土台があってこそ成功したものであり,鳥取大学・押村光雄特任教授,久郷裕之教授をはじめ研究室のスタッフ・大学院生に心から感謝申し上げます.