Newsletter Volume 32, Number 1, 2017

受賞者からのコメント

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ベストポスター賞を受賞して

東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室
三宅健之

 この度,第31回日本薬物動態学会年会において,ベストポスター賞という栄誉ある賞を授かり,大変光栄に思っております.ご審査いただきました選考委員の方々をはじめ,日本薬物動態学会関係各位の皆様に御礼申し上げます.

 カルニチンやコリンなどの栄養素は,腸内細菌によってトリメチルアミンに代謝され,肝臓に取り込まれたのち,トリメチルアミンN-オキシド(TMAO)へと酸化的に代謝されます.近年,TMAOの血中濃度がアテローム性動脈硬化症,心血管疾患,慢性腎臓病といった諸疾患の発症リスクと相関することが明らかとなっています.TMAOを高摂取したマウスにおいて,大動脈洞の動脈硬化病変の増大や腎障害マーカーの発現上昇がみられることから,TMAO自身が組織障害性を持ち,疾患を誘導するものと考えられています.しかし,TMAOの組織分布・体内動態に関する報告は少なく,ヒトにおいては主に尿中排泄によって体外へ排出されること,および腎クリアランスが糸球体濾過速度よりも小さく,再吸収の寄与が示唆されることが知られていたのみで,その詳細な機構は未知でした.そのため,TMAOのもつ組織障害性が,腎や血球細胞,血管内皮細胞といった組織内で直接発揮されているのか否かは分かっていません.

 そこで私は,薬物トランスポーターがTMAOの体内動態を決定している可能性について検討しました.TMAOは高い水溶性を有しており,単純拡散によって細胞膜を透過できないため,ヒトの体内においてはトランスポーターを介した輸送によって特定の組織に集積する可能性が考えられます.本研究では,TMAOの構造類似体であるテトラエチルアンモニウム(TEA)を基質とすることが知られているorganic cation transporter 1, 2(OCT1, 2)に着目し,強制発現HEK293細胞およびOct1/2ダブルノックアウトマウスを用いた解析を行いました.その結果,OCT1, 2がTMAOを基質とし,マウスにおいて,肝臓で産生されたTMAOの血中への排出をOCT1が,またTMAOの腎近位尿細管への取り込みをOCT1, 2が担うことを明らかにしました.また,Oct1/2ダブルノックアウトマウスにおいて,内因性TMAOの血中濃度が野生型の2倍程度に上昇していることを見出しました.この成果が,腎臓をはじめとした組織におけるTMAOの障害標的分子の実体に迫る研究や,また医薬品開発の現場での薬物間相互作用の予測において,TMAOの血中濃度がOCTの機能を反映するバイオマーカーとして利用できる可能性の検討などに繋がることを期待しております.

 最後になりましたが,本研究の遂行に際してご指導いただいた当研究室の楠原洋之教授,前田和哉講師,林 久允助教,水野忠快助教,共著者の望月達貴様をはじめとする学生の皆様に,この場をお借りして深く御礼申し上げます.

演題:Organic Cation Transporter (OCT) is responsible for the renal influx and clearance of trimethylamine N-oxide (TMAO)