Newsletter Volume 32, Number 1, 2017

受賞者からのコメント

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ベストポスター賞を受賞して

慶應義塾大学大学院薬学研究科薬剤学講座
稲垣 舞

 この度,日本薬物動態学会第31回年会において,栄誉あるベストポスター賞をいただき,誠にありがとうございます.ご審査いただきました選考委員の先生方に御礼申し上げます.

 妊娠期に子宮らせん動脈は血管壁を再構築し拡張することで,胎児胎盤に必要な血流量を確保します.血管の再構築が抑制されると,胎児胎盤への血液供給が制限され,子宮内胎児発育遅延や母児の生命を脅かす妊娠高血圧症を引き起こすと言われています.妊娠期に主に胎盤から産生されるプロスタグランジンE2(PGE2)は子宮らせん動脈の血管の再構築に関与することが示唆されており,我々は胎盤におけるPGE2シグナル制御機構の破綻が血管の再構築の抑制に繋がると考えました.そこで我々は,胎盤に高発現している高親和性PGE2膜輸送体であるorganic anion-transporting polypeptide 2A1(OATP2A1/SLCO2A1)に着目し,OATP2A1が胎盤内PGE2シグナル制御および子宮らせん動脈の血管の再構築に果たす役割を解析しました.本研究より,胎盤においてOATP2A1はPGE2分解酵素と共局在し,OATP2A1によって取り込まれたPGE2は,PGE2分解酵素によって分解されることを明らかにしました.さらにSlco2a1欠損が子宮らせん動脈の血管の再構築を抑制することで,子宮内胎児発育遅延を引き起こすことを示唆する結果を得ています.子宮らせん動脈の血管の再構築が起こる分子機構は未解明であり,妊娠高血圧症の治療に向けた基盤的知見として,血管の再構築に関する分子機構の解析が期待されます.今後は,Slco2a1欠損によって子宮らせん動脈の血管の再構築が抑制される機構を解明していき,本研究が妊娠高血圧症の治療開発に役立てるよう,研究に励みたいと思います.

 最後になりましたが,本研究の遂行に際して,ご懇篤なご指導ご鞭撻を賜りました当研究室の登美斉俊教授,西村友宏専任講師,中島恵美名誉教授,並びに共著者の玉井郁巳教授(金沢大学),中西猛夫准教授(金沢大学),細谷健一教授(富山大学),赤沼伸乙助教(富山大学),立川正憲准教授(東北大学)にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.

演題:Role of prostaglandin transporter for PGE2 degradation in the murine placental spongiotrophoblasts