Newsletter Volume 32, Number 1, 2017

受賞者からのコメント

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ベストポスター賞を受賞して

金沢大学医薬保健研究域 薬学系 分子薬物治療学研究室
大庭悠里

 この度,第31回日本薬物動態学会年会において,ベストポスター賞という栄誉ある賞を頂き,大変光栄に存じます.年会長の大森 栄先生をはじめ,ご審査いただきました選考委員の先生方,学会理事の先生方,そして参加者の皆様に厚く御礼申し上げます.

 クローン病は,未だ原因が不明の炎症性腸疾患の一つです.クローン病の関連遺伝子として,有機カチオン膜輸送体OCTN1の変異C1672T/L503Fが複数のゲノムワイド関連解析で示されており,OCTN1が発症と何らかの関係があることが考えられます.既に私たちは,octn1遺伝子欠損マウスにおいて消化管での炎症が増悪することを報告しており,OCTN1は,炎症抑制物質の取り込みまたは炎症増悪物質の排出に寄与する可能性があります.本研究はこれら物質の同定を目的としました.いずれにおいてもOCTN1の基質を見つける必要があります.本研究の特長は,OCTN1による輸送機能を利用し,OCTN1に認識されやすい構造の物質を選び出す膜輸送体・構造選択的メタボロームです.すなわち,OCTN1遺伝子発現細胞を利用して基質を濃縮しつつ,OCTN1基質の多くがアミノ基を有する点に着目して分子修飾を組み合わせた質量分析を行うことにより,OCTN1の新規生体内基質を同定しました.通常のメタボローム解析で問題となるfalse positiveを回避する手法の一つとして有効であることが示されました.今後は,同定された物質と炎症性腸疾患との関連性を解明し,治療や診断に応用していきたいと考えています.近年,膜輸送体を介した生体内基質輸送は,機能変動による病態の発症メカニズムの解明や薬物相互作用のプローブ化合物としての利用が注目されています.本研究で提唱した膜輸送体・構造選択的メタボローム解析は,OCTN1のみならず,多様な膜輸送体の生体内基質同定に応用できると考えています.

 最後に,本研究は当研究室の加藤将夫教授,中道範隆准教授,増尾友佑助教,金沢大学薬学系生物有機化学研究室の国嶋崇隆教授,山田耕平助教との共著です.両研究室の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.

演題:Identification of endogenous OCTN1 substrate by transporter/structure-selective metabolome approach