Newsletter Volume 32, Number 1, 2017

受賞者からのコメント

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ベストポスター賞を受賞して

千葉大学大学院薬学研究院生物薬剤学研究室
薄田健史

 この度,第31回日本薬物動態学会年会において,栄誉あるベストポスター賞に選出されたこと,大変光栄に存じます.選考委員の先生方に,心より御礼を申し上げます.

 本研究は,マウス体内で機能しうるヒト白血球抗原(HLA)遺伝子を導入したマウス(キメラ型HLAトランスジェニック(Tg)マウス)を作出し,薬物とHLA遺伝子との相互作用により免疫応答が惹起され発症する特異体質薬物毒性を評価可能か検証したものです.これまで,特異体質薬物毒性の発症リスクにHLA多型が関係することはゲノムワイド関連解析より示唆されていましたが,特定の薬物・組織で毒性が発現する詳細なメカニズムについては未だ不明でありました.本研究では,抗HIV薬であるアバカビルとHLA-B*57:01遺伝子との相互作用により免疫応答が惹起され発症する「特異体質性のアバカビル過敏症(皮膚毒性)」に焦点を当て,作出したTgマウスにアバカビルを曝露した後の免疫応答を評価しました.その結果,HLA-B*57:01遺伝子を導入したTgマウスにおいて,アバカビルの曝露によってリンパ節重量の増加や細胞傷害性T細胞(CD8+ T細胞)の増殖といった免疫反応の亢進が認められました.これらの結果から,特異体質薬物毒性の評価において,本研究で用いたキメラ型HLA導入Tgマウスが有用となることが示唆されました.

 本評価モデルマウスは,特異体質薬物毒性を前向きに再現できることから,詳細な発症メカニズムの解明に応用可能となることが特徴です.さらに,導入したキメラ型HLAタンパク質がマウス全身に発現していると示唆されたことから,組織特異的な毒性発現の原因の究明にも繋がりうると期待しています.HLAの関与する特異体質毒性に関する研究は端緒についたばかりでありますが,本研究が種々のHLA多型分子における特異体質毒性評価に応用する上での試金石となれるよう,今後もより一層研究に励みたいと思います.

 最後に,本研究を遂行するにあたり,終始御懇切なる御指導・御鞭撻賜りました当研究室の伊藤晃成教授,青木重樹助教,ならびに御協力いただいた藤森惣大さんをはじめとした学生の皆様にこの場を借りて深く御礼申し上げます.

演題:Evaluation of the immune-mediated idiosyncratic drug toxicity using chimeric HLA transgenic mice