Newsletter Volume 33, Number 1, 2018

受賞者からのコメント

写真:藤森惣大

ベストポスター賞を受賞して

千葉大学大学院薬学研究院生物薬剤学研究室
藤森惣大

 この度,第32回日本薬物動態学会年会においてベストポスター賞を賜り,誠に有難うございます.審査委員の先生方に心より御礼申し上げますと共に,日頃よりご指導いただいております諸先生方にこの場をお借りして御礼申し上げます.拙文ではございますが,受賞を頂きました研究の内容に関しましてご紹介させていただきます.

 近年ゲノムワイド解析により,特異体質薬物毒性の発症とヒト白血球抗原(HLA)の遺伝子多型との関連が数多く報告されております.この種の毒性は特定多型HLAによる薬物抗原の提示が原因となることが解明されてきた一方で,詳細な発症メカニズムには不明な点が多く残されています.今回私は,HLA-B*57:01多型がリスク因子となるアバカビル過敏症について,重篤な皮膚毒性が生じる点に着目し,皮膚に特異的な毒性メカニズムを研究いたしました.

 当研究室ではHLA-B*57:01遺伝子導入マウス(HLA-B*57:01-Tg)及び,アバカビル抗原を提示しない陰性対照多型であるHLA-B*57:03遺伝子導入マウス(B*57:03-Tg)を用いることで,HLA多型特異的な薬物毒性の再現に成功しておりました.よって,こちらのマウスを用いることで,ヒトでは困難な,原因HLAを発現した個体由来の初代培養細胞によるIn vitroの検討及び,In vivoの検討を行いました.自身の検討から,B*57:01-Tg由来ケラチノサイト(KC, 皮膚表皮細胞)へのアバカビル曝露により,IFN-γ, IL-1βmRNAの有意な発現上昇が生じること,そして,その培養上清に抗原提示細胞である樹状細胞への活性化作用があることを見出しました.驚くことに,これら現象はHLA-B*57:03-Tg由来KCでは見られませんでした.また,In vivoの検討においても,B*57:01-Tgの耳へのアバカビル皮内投与により,KCの免疫応答に伴って,活性化した表皮樹状細胞のリンパ節への遊走を示唆する結果が得られました.これらの結果から,KCのアバカビルに対するHLA多型特異的な自然免疫応答が,樹状細胞の活性化を介して獲得免疫を活性化することで,皮膚における重篤な症状を惹起することが示唆されました.本研究により,獲得免疫の関与する皮膚毒性において,KCの免疫応答を考慮することの重要性を示唆できたと考えております.

 本学会での発表は学生として最後のものであり,集大成としてこのような栄誉ある賞をいただくことができ,大変嬉しく思っております.来年度からは,創薬の現場での研究に携わらせて頂きますが,これまでの経験を存分に活かし,より一層精進してゆきたいと考えております.最後に,本研究に取り組むにあたりご指導頂きました,伊藤晃成教授,関根秀一講師,青木重樹助教,そして本学会においてご指導いただいた諸先生方に厚く御礼を申しあげます.