Newsletter Volume 33, Number 1, 2018

受賞者からのコメント

 写真:安田佳織

ベストポスター賞を受賞して

富山県立大学工学部医薬品工学科
安田佳織

 この度,第32回日本薬物動態学会において,栄誉あるベストポスター賞を頂き,大変光栄に思っております.選考委員の先生方ならびに学会関係者の皆様に,心より御礼を申し上げます.

 ビタミンDは骨の維持に必須の成分であるとともに,近年では癌や免疫などさまざまな疾患との関連が報告されています.ビタミンD3が生理作用を発揮するためには体内での代謝が重要な役割を果たしており,肝臓で25-ヒドロキシビタミンD3(25D3)へ,続いて腎臓で1α,25-ジヒドロキシビタミン(1,25D3)へと代謝され,この1,25D3がビタミンDレセプター(VDR)に結合することで種々の生理作用を発揮します.実際,ビタミンD3の1α位水酸化酵素CYP27B1遺伝子欠損マウスでは1,25D3が生成されず,くる病症状を呈すること,また,1,25D3やその誘導体が骨粗鬆症治療薬として使われていることも1,25D3の重要性を示しています.

 25D3と1,25D3は,ともにCYP24A1によって連続的に代謝されることから,生体内にはCYP24A1由来の代謝物も含めて多数のビタミンD代謝物が存在します.近年,CYP24A1と疾患との関係も報告されてきており,各種疾患と血中ビタミンD代謝物量との関連を調べる上で,血中25D3や1,25D3量に加え,多数存在するCYP24A1由来代謝物を定量的に解析することは意義が大きいと考えられます.しかしながら,実際には,CYP24A1由来代謝物のほとんどは標準品が市販されておらず,定量分析法が確立されていません.今回,種々のビタミンD代謝物を分取し,誘導体化した代謝物をLC/MS/MS分析することで,種々の血中ビタミンD代謝物の一斉定量分析法を確立しました.また,生体内におけるCYP24A1依存性および非依存性のビタミンD3代謝を明らかすることを目的とし,CYP24A1遺伝子欠損(CYP24A1-KO)ラットを作出しました.25D3投与時の血中代謝物を野生型とCYP24A1-KOラットで比較したところ,5種の代謝物がCYP24A1依存性であることが明らかになり,CYP24A1-KOラットを用いて,生体内のCYP24A1依存的,非依存的なビタミンD代謝解析が可能であることがわかりました.骨粗鬆症や癌治療薬として有望なビタミンD誘導体の評価を行う上でも,本ラットが有用なツールになることが期待されます.

 今回の研究は当大学の榊教授のグループで行ったもので,当グループでは,今回紹介したCYP24A1-KOラット以外にも,CYP27B1遺伝子欠損ラット,VDR遺伝子改変ラットの解析を行っています.これまでマウスの系で困難であった微量なビタミンD代謝解析や微小組織の解析がラットを用いることで可能になり,今後,多様なビタミンD作用のメカニズム解明に繋がればと考えています. 

 最後に,本研究の遂行に際してご懇篤なるご指導を賜りました当大学の榊 利之教授,生城真一教授ならびにご助言・ご協力をいただきました西川美宇博士,岡本海利さんをはじめとする学生の皆様,共著者の岡野登志夫教授(神戸薬科大学),中川公恵准教授(神戸薬科大学),津川尚子教授(大阪樟蔭女子大学)にこの場を借りて深くお礼申し上げます.今回の受賞を励みにより一層研究に励みたいと思います.