Newsletter Volume 33, Number 1, 2018

DMPK 33(1)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

尿酸トランスポーターABCG2を介したキサンチンデヒドロゲナーゼ阻害薬輸送の検討

Nakamura, M., et al., pp. 77–81

 腎臓や肝臓,消化管などに発現するATP–binding cassette subfamily G member 2 (ABCG2)は高容量性の尿酸輸送能を持ち,ABCG2の機能低下は高尿酸血症リスクとなる.高尿酸血症患者の約8割にABCG2変異を認めるため,高尿酸血症治療薬がABCG2の輸送基質となるか否かは患者の薬物動態を規定する上で重要となる.我々は,キサンチンデヒドロゲナーゼ阻害薬アロプリノール及びフェブキソスタットはABCG2による輸送を受けないが,アロプリノールの活性代謝物であるオキシプリノールがABCG2の輸送基質となることを見出した.この結果から,ABCG2の機能が低下している高尿酸血症患者では,オキシプリノールが排泄されにくく血中濃度が上昇することが示唆される.本知見が高尿酸血症治療における薬物動態把握,及び将来的には患者個々の処方設計への一助となることを期待する.

[Regular Article]

ニコチンC-酸化活性およびクマリン7-水酸化活性におけるCYP2A13遺伝子多型バリアント酵素の機能変化

Kumondai M., et al., pp. 82–89

 CYP2A13はタバコに含まれるニコチンや発がん前駆物質の代謝酵素と考えられている.現在,遺伝子多型の1種であるCYP2A13*2によって酵素活性が変化し,発がんリスクに影響を及ぼすことが示唆されている.しかし,その他の遺伝子多型がどの程度酵素活性に影響を及ぼすかは明らかになっていない.そこで本研究では,9種類のCYP2A13遺伝子多型に由来するバリアント酵素について,ニコチンC-酸化活性およびクマリン7-水酸化活性の変化を酵素反応速度論的に解析した.その結果,全てのバリアント酵素において酵素活性が有意に低下あるいは消失することが明らかとなった.また,各バリアント酵素について,CO差スペクトル法によりホロCYP含量を定量したところ,代謝物の生成量が検出限界以下となったバリアントでは450nmにおける吸収極大が認められず,遺伝子多型に由来するアミノ酸置換によってホロ酵素量が減少することが示唆された.これらの結果は,喫煙によるがん感受性の遺伝的個人差の解明に向けた有益な知見となることが期待される.

[Regular Article]

フェソテロジンとケトコナゾールのヒト薬物相互作用試験データを活用した生理学的薬物動態モデルによる腎P-gpに対するケトコナゾールのヒトin vivo Ki値の推定

Oishi M., et al., pp. 90–95

 精度の高い臨床薬物相互作用(DDI)予測のためには,阻害薬の正確なヒトin vivo阻害定数(Ki値)を得ることが重要である.これまでにチトクロームP450では,Ki値について多くの報告がなされているが,排出トランスポーターであるP糖蛋白(P-gp)については,阻害の影響が被阻害薬の吸収と排泄の両方に現れることが多く,それぞれを分離したヒトin vivo Ki値の推定が困難である.本研究で用いたフェソテロジンは,プロドラッグとして経口投与される.このプロドラッグはP-gpの基質ではなく,一方,活性本体である5-HMTがP-gpの基質であり,また腎排泄にはP-gpによる能動排泄が関与すると考えられている.この特徴を利用して,ヒトDDI試験での血漿および尿中濃度データより,生理学的薬物動態モデルによる腎P-gpに対するケトコナゾールのヒトin vivo Ki値の推定を行った.本論文は,腎P-gpに対するケトコナゾールのヒトin vivo Ki値の初めての報告となる.本研究が,より精度の高い臨床DDI予測に貢献することを期待する.

[Regular Article]

ブタ腎上皮LLC-PK1細胞とラットを用いた腎臓H+/脂溶性カチオン対向輸送系の機能解析

Matsui, R., et al., pp. 96–102

 近年,種々の生体組織において脂溶性カチオン薬物を輸送する輸送系の存在が報告されている.我々は腎臓に着目し,前報(Eur J Metab Pharmacokinet 41, 819-824 2016)ではイヌ腎上皮MDCK細胞を用いてH+/脂溶性カチオン対向輸送系の存在を明らかにした.本研究ではブタ腎上皮LLC-PK1細胞を用いてこの輸送系の存在を明らかにすることで,動物種を超えてH+/脂溶性カチオン対向輸送系が腎臓に発現していること,すなわち発現に一般性があることを示した.また,ラットを用いて腎クリアランスの測定を行うことでin vivo条件においてもこの輸送系が機能しており,脂溶性カチオンの腎排泄に関与していることを示した.その際,OCT-MATE経路で排泄される薬物であるシメチジンと比較することでより理解しやすくインパクトのあるデータにした.今後はH+/脂溶性カチオン対向輸送系の基質認識性の評価など,さらに実体に迫るような研究を行っていきたい.

[Regular Article]

生理学的薬物速度論モデルを用いた健康被験者におけるトリメトプリムの腎臓トランスポーター阻害による血清クレアチニン上昇の定量的解析

Nakada T., et al., pp. 103–110.

 クレアチニンは腎機能マーカーの一つとして広く利用され,腎機能障害時には血清クレアチニン値(SCr)が上昇することが知られている.一方,市販薬の中には腎機能マーカーに影響することなく,その服用期間中にSCrが上昇する薬物が報告されている.本研究では,複数の用法用量におけるトリメトプリム服用期間中のSCr上昇についてOCT2, OCT3, MATE1およびMATE2-Kといった腎臓トランスポーターを介したクレアチニンの腎尿細管分泌阻害を考慮したモデル解析によって,定量的に説明可能であることが示された.本研究で示したSCr上昇の予測手法がトリメトプリムのみならず他の腎臓トランスポーター阻害薬にも適用可能か検討中であるが,将来的には,服用期間中に生じたSCr上昇が腎臓トランスポーター阻害に起因するか判別することにより,腎障害の発症有無に加えて腎臓トランスポーターを介した薬物相互作用試験の必要性をより適切に判断するための知見となることが期待される.