Newsletter Volume 33, Number 1, 2018

受賞者からのコメント

 写真:山本俊輔

ベストポスター賞を受賞して

武田薬品工業株式会社
リサーチ 薬物動態研究所
山本俊輔

 この度は,『ヒトおよびミニブタ摘出皮膚を用いた経皮投与後のヒト薬物動態予測』という演題で,ベストポスター賞を賜りました.このような大変栄誉ある賞を頂き光栄に存じます.選考委員の先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.

 ヒト薬物経皮吸収の予測に関する研究は,過去50年以上に亘り,様々な研究者によって検討されています.ヒト摘出皮膚を用いたin vitro経皮吸収試験がゴールドスタンダードとされていますが,in vivo皮膚吸収と比較し,2倍以上乖離する報告例も多数あり,その予測性は決して満足のいくものではありません.我々は皮膚透過におけるin vitroin vivoの乖離が,in vitro試験条件に起因していることを疑い,in vivo皮膚吸収速度を適切に反映するin vitro皮膚透過試験系の構築を試みました.薬物は真皮上層に存在する毛細血管によって全身循環へ吸収されることから,真皮下層を削り,400 μm程度の厚さに設定しました.また,経皮吸収の最大の制限要因である角層の厚さは,通常適用される上腕部,腹部および背部で概ね同じであることから,比較的入手のしやすい腹部皮膚を選択しました.デバイスへの吸着防止や溶解度向上を目的として,in vitro試験におけるアクセプター(真皮)側の溶液を0.1%の界面活性剤を含むPBS溶液に設定し,7つの市販製剤を用いてin vitro透過試験を実施した結果,すべての評価製剤で,in vitro皮膚透過速度は,in vivo皮膚吸収速度の2倍以内でした.皮膚厚と部位の選択はFickの拡散則に従った合理的なものであり,アクセプター溶液もアーティファクトを防ぐ一般的な選択です.奇抜な方法論ではなく,基本的な手法の組み合わせと既存の情報から想定できる仮説に基づいた研究が,過去50年に渡る問題を解決したことは驚きであるとともに,地道で堅実な実験の重要性を改めて感じました.次に,得られたin vitro皮膚吸収速度をin vivoにおける0次吸収速度として仮定し,報告されているヒト体内動態パラメータおよびコンパートメントモデルを用いて,ヒト血漿中濃度推移をシミュレーションした結果,臨床データを概ね再現できました.これらの結果は,in vitro試験系の適切な設定により,in vivo経皮吸収を確度良く,かつ簡便に予測できることを示しています.本研究では,さらに解剖学的に皮膚がヒトと近いゲッチンゲンミニブタの有用性についても検証しています.企業研究において非常に重要な項目である皮膚の入手のしやすさ,ロット間差およびコストは,ミニブタの方が優れています.ヒト摘出皮膚を用いたin vitro試験と同じプロトコールで,ミニブタのin vitro皮膚透過を検討した結果,ヒトin vivo皮膚吸収速度を確度良く再現することができました.本研究成果は,適切な製剤評価を可能とするものであり,患者様へ一刻も早く最良の経皮製剤を届けることに貢献するものと信じております.

 最後になりましたが,共に研究を遂行しました辛島正俊氏,福士千春氏,遠山季美夫氏,新井勇太氏,ならびに指導を賜りました平林英樹氏,天野信之氏,また武田薬品工業株式会社薬物動態研究所各位に,この場をお借りしまして深く感謝を申し上げます.