Newsletter Volume 38, Number 1, 2023

受賞者からのコメント

顔写真:永易美穂

ベストポスター賞を受賞して

中外製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ本部
永易美穂

 この度,日本薬物動態学会第37回年会にて「バイオ医薬品の非放射性金属を用いた標識法とマトリクスの影響を受けない誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を用いた新規動態評価法の開発」という演題でベストポスター賞を賜り,大変光栄に思います.審査いただきました先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.

 放射性同位元素(RI)を使用した研究は,高い感度,特異性および簡便性のためにライフサイエンス分野で広く行われています.しかし,その使用には厳しい認可要件を満たした施設が必要であり,RIの保管・使用・廃棄には厳しいルールや実験中の研究者への放射線曝露リスクもあります.

 そこで本研究では食品中の金属不純物の検出に主に使用されるICP-MSと非放射性金属で標識したモノクローナル抗体を用いて新規組織分布評価法を開発しました.非放射性インジウムで標識した抗体のマウスにおける血中濃度推移および臓器分布をICP-MSで測定した結果,放射性インジウム (111In)で標識した抗体と同等の血中濃度推移および臓器分布を示しました.このことから,非放射性金属標識抗体をICP-MSで検出する本方法は従来のRI標識抗体を用いた分布評価の代替法となることが示されました.

 本方法は非放射性金属を使用していることから,使用場所の制限や研究者の被爆リスクがない方法です.そのため,これまで評価が難しかったサルにおける抗体分布評価が可能となります.また,ICP-MSは複数金属を同時に定量できるため,複数抗体にそれぞれ異なる金属を標識することで1匹の動物で複数抗体の分布を同時に評価することも可能となります.実験者に優しく,動物倫理にも配慮できる本方法は今後,改変抗体技術や細胞などバイオ医薬品の創薬・開発段階へ活用され,開発スピード加速に貢献できると確信しております.

 最後になりましたが,本研究を遂行する上で多大なるご協力をいただきました高野陽子氏,峰岸志奈氏,ならびに指導を賜りました尾関和久氏,また中外製薬株式会社研究本部およびトランスレーショナルリサーチ本部の皆様に,この場を借りて心より感謝申し上げます.