Newsletter Volume 38, Number 1, 2023

受賞者からのコメント

顔写真:中山慎司

ベストオーラル賞を受賞して

田辺三菱製薬株式会社 創薬本部 薬物動態研究所
中山慎司

 この度は,日本薬物動態学会第37回年会におきまして,「Construction of PBPK models describing the effect of simeprevir on co-administered drugs and endogenous substances」の演題でベストオーラル賞に選出頂き誠にありがとうございます.学会運営ならびに賞の選考に関わっていただいた皆様に深く感謝申し上げます.

 薬物を適切に服用する上で薬物間相互作用の特性を理解することは極めて重要です.本研究では,CYP3A4及びOATP1Bの阻害作用を示す経口C型肝炎治療薬simeprevirをモデル薬物として,生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを用い,複数の薬物間相互作用の横断的な解析を実施しました.解析を進めるにあたり,薬物と薬物の相互作用だけでなく,肝炎病態が肝臓の薬物代謝酵素や薬物トランスポーターに与える影響,すなわち疾患と薬物の相互作用も考慮する必要があり,複雑な解析となりましたが,1つ1つの情報をPBPKモデルに組み込み,詳細に解析を進めました.その結果,複数の薬物間相互作用を再現する”reliable”なCYP3A4及びOATP1Bに対する阻害定数の推定に至りました.本研究で示した解析プロセスは,実際の創薬現場において,医薬品開発の質やスピードの向上に寄与し得るものと考えています.

 今回の受賞を通じて,自身が所属する組織のみならず,社外の研究者とつながり,お互い切磋琢磨していくことの重要性を改めて感じました.最後に,多くの方の支えのおかげで,賞を頂くことが出来ました.御指導頂いている城西国際大学の杉山雄一先生,PKPDセミナーの諸先生方,田辺三菱製薬株式会社の皆様に,厚く御礼を申し上げると同時に,常に私を支えてくれている家族に感謝致します.