Newsletter Volume 38, Number 1, 2023

DMPK 48に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

創薬応用を目的としたMDR1-knockoutヒト腸管オルガノイドの樹立

Inui, T., et al.

 経口投与医薬品の小腸における薬物動態をin vitroで評価する際に汎用されているCaco-2細胞は,薬物の代謝に大きく関与するCYP3A4の活性がほとんどない.また,特定のトランスポーターの阻害剤を作用させた検討では,阻害剤のオフターゲットによりトランスポーターの正確な機能評価が困難である.本研究では,生検由来ヒト腸管オルガノイド単層膜が,CYP3A4を始めとした各種薬物動態関連遺伝子の発現量や活性が高いことに注目し,主要なトランスポーターであるMDR1を欠損したヒト腸管オルガノイドを作製・単層膜化し,その有用性を評価した.その結果,MDR1のノックアウトは他の薬物代謝酵素やトランスポーターの遺伝子発現や活性に影響を与えなかった.また,MDR1-KO単層膜ではMDR1を基質とする薬剤の作用を正しく評価可能であった.一方,正常オルガノイド単層膜にMDR1の阻害剤を作用させた検討では,阻害剤のオフターゲットのためにMDR1を基質とする薬剤の作用を正しく評価出来なかった.従って,MDR1-KOヒト腸管オルガノイド由来単層膜は,従来の評価系よりもMDR1の機能を精度良く評価できることが示唆された.今後は,他の薬物動態関連分子をノックアウトしたオルガノイド株も用いて,精度の高い薬物動態評価パネルを作成したい.

 

[Regular Article]

同一個人由来のヒト生検由来腸管オルガノイドとヒトiPS細胞由来腸管オルガノイドの比較

Inui, T., et al.

 現在in vitro腸管薬物動態試験への応用を見据え,ヒト生検由来腸管オルガノイド(b-IO)とヒトiPS細胞由来腸管オルガノイド(i-IO)の研究が行われているが,両者の特性を比較した研究は行われていない.本研究では,同一個人から両タイプのオルガノイドを樹立することで,遺伝的背景を揃えた比較検討を実施した.その結果,オルガノイドの状態では,b-IOはi-IOに比べ増殖速度が速く,主要な薬物代謝酵素や薬物トランスポーターおよび腸管分化マーカーの遺伝子発現レベルも高かった.薬物動態への応用を検討するため,両オルガノイドを単層膜として培養し種々の検討を行ったところ,b-IO単層膜はi-IO単層膜よりもTEERが低かったが,多くの薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの遺伝子発現レベルがi-IO単層膜よりも高かった.また,薬物代謝活性や薬物輸送活性に関してもb-IOの方が優れ,薬物動態研究への適性が示された.一方,RNA-seq解析の結果,i-IOはb-IOに比べ,神経細胞や血管内皮細胞を含むより複雑な構造を持っていることが示唆された.本研究により,b-IOがin vitro腸管薬物動態試験系として優れていること,i-IOは現状では腸管への分化が不十分であり,今後i-IOの分化誘導法を改善する必要があることが明らかとなった.

 

[Regular Article]

CYP2C19グリッドテンプレートシステムの開発と代謝/阻害予測への適応

Yamamura, Y., et al.

 CYP2C19はプロトンポンプ阻害剤や抗うつ剤を含む多くの物質の代謝に関わっています.また,遺伝子多型を有しているために,医薬品開発において本酵素の関与を明らかにする利点は大きいです.発現系酵素を用いて得られた代謝データを用いて,基質側の構造から酵素の活性部位を再構築する方法を試みました.CYP2C19が関わる450以上の反応を調べて適用性を確認し,代謝における部位選択性だけでなく,阻害剤との相互作用についてもテンプレート上で説明することができました.CYP2C9代謝予測のためのテンプレートシステム(doi: 10.1016/j.dmpk.2022.100451)を既に報告しています.CYP2C9とCYP2C19はアミノ酸相同性が高く,基質特異性が類似している一方で,基質特異性の違いも報告されています.この違いが生じる原因についても検討し,トリガー部位によるリガンド固定環境にわずかな違いがあること,酸化部位とトリガー部位の距離の差異によって生じる可能性を示しました.

 

[Note]

マウスCyp1a2遺伝子5’-上流近位領域における核内受容体Constitutive androstane receptor(CAR)応答配列

Kawasaki, Y., et al.

 CYP1A2は代表的なシトクロムP450分子種の1つであり,主に肝臓で発現し,医薬品,ステロイドホルモンなどの代謝や発がん物質の代謝的活性化に関わる酵素である.CYP1A2の遺伝子発現変動は,薬物代謝能や生体恒常性維持に影響する.CYP1A2の遺伝子発現はフェノバルビタールにより活性化されたConstitutive androstane receptor(CAR)により誘導されるが,マウスCyp1a2遺伝子におけるCAR応答配列は同定されていなかった.本研究では,マウス初代培養肝細胞系を用いたレポーター遺伝子アッセイなどによりCyp1a2遺伝子5’-上流のCAR応答配列を探索し,5’-上流近位領域にER1(-160/-155, -153/-148)およびER8(-160/-155, -146/-141)配列を同定した.ヒトCYP1A2遺伝子ではER8 CAR応答配列が5’-上流遠位領域に存在し,ヒトとマウスでの共通点・相違点が明らかとなった.マウスを用いたP450や動態解析の重要な知見となる.今後は本誘導がもたらす影響についても明らかにしてゆきたい.