Newsletter Volume 38, Number 1, 2023

受賞者からのコメント

顔写真:竹本誠也

ベストポスター賞を受賞して

金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科 薬学専攻
薬物代謝安全性学研究室

竹本誠也

 この度,横浜で開催された第37回薬物動態学会におきましてベストポスター賞という栄誉ある賞を頂き,ご審査いただいた先生方を始め,有意義な議論を交わしていただいた皆様に心より御礼申し上げます.

 本年会では「Stabilization of DNA G-quadruplexes on the upstream region of CYP3A4 gene promotes the transcription」 という演題で発表させていただきました.ゲノムDNAはワトソン-クリック塩基対によって二重らせん構造を形成しますが,グアニンに富むDNA塩基配列ではフーグスティーン塩基対を介したグアニン四重鎖 (G4) 構造をとることが知られています.G4構造は遺伝子の上流領域に存在することで遺伝子の転写を調節することから,遺伝子の発現調節において重要な役割を果たしていると考えられます.本研究では,CYP3A4遺伝子の上流領域に潜在的なG4形成配列が3カ所存在していることに注目し,これらの配列によるG4構造の形成がCYP3A4の発現に及ぼす影響を明らかにすることを目指しました.初めに,qPCR stop assayおよび抗G4構造抗体を用いたクロマチン免疫沈降法により,CYP3A4遺伝子の上流のG4形成配列が実際にG4構造を形成していることを明らかにしました.グローバルなG4構造の安定化剤であるピリドスタチンをヒト初代培養肝細胞およびヒト肝がん由来HepG2細胞に処置したところ,CYP3A4 mRNA発現の増加が認められ,G4構造の安定化はCYP3A4の発現を誘導することが示されました.そして,クロマチン構造の弛緩の程度を評価するformaldehyde-assisted enrichment of regulatory elements assayおよび抗PXR抗体を用いたクロマチン免疫沈降の結果から,PXRのリガンド存在下または非存在下のいずれにおいても,G4構造の安定化がCYP3A4遺伝子の上流領域におけるクロマチン構造を弛緩させ,PXRの結合性を増強させることでCYP3A4の転写活性化が生じることを明らかにしました.最後に,CYP3A4遺伝子上流のG4構造の安定化を介して,CYP3A4の誘導を引き起こす医薬品が存在する仮説を立て,qPCR stop assayによって765種のFDA承認薬ライブラリーからCYP3A4 G4 stabilizerの探索を試みた結果,PXRの非リガンドであるジゴキシンが3カ所存在するG4形成配列のうち1カ所を選択的に安定化させることが示されました.興味深いことに,実際にジゴキシンをHepG2細胞に処置したところ,CYP3A4 mRNAの発現増加が認められました.本研究により,薬物代謝酵素の発現制御にG4構造の形成が関与することを初めて明らかにし,加えてジゴキシンがG4構造の安定化という新規のメカニズムを介してCYP3A4の発現を誘導する可能性を示すことができました.

 最後になりましたが,本研究の遂行に際してご指導いただいた当研究室の中野正隆助教,深見達基准教授,中島美紀教授にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.薬物動態におけるグアニン四重鎖構造の役割に関する検討は始まったばかりで,日々試行錯誤の連続ですが,今回の受賞を励みに,より一層研究活動に臨みたいと思います.