Newsletter Volume 38, Number 1, 2023

受賞者からのコメント

顔写真:中園優也

ベストポスター賞を受賞して

金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科 創薬科学専攻
薬物動態学研究室

中園優也

 この度は,日本薬物動態学会第37回年会におきまして,「A novel in vitro hepatocyte culture system for rapid evaluation of the biliary excretion of drugs」の演題でベストポスター賞という栄誉ある賞を授与頂き,誠にありがとうございます.年会長の平林英樹先生をはじめ,審査頂きました選考委員の先生方,日本薬物動態学会関係者の皆様に深く感謝申し上げます.

 薬物代謝酵素やトランスポーターを介した薬物の胆汁中排泄評価は,薬物の肝胆道動態が薬効や安全性に直結するため非常に重要です.現在,サンドイッチ培養肝細胞 (sandwich-cultured hepatocyte: SCH)が薬物の胆汁中排泄のin vitroモデルとして広く用いられています.SCHでは,胆汁中排泄された薬物は肝細胞間に形成された胆管腔と呼ばれる微小な内腔に蓄積します.胆管腔中に分泌された薬物の回収にはCa2+/Mg2+フリー条件下で密着結合を破壊し胆汁成分を漏出させる必要があり,手間がかかる上にCa2+/Mg2+フリー状態を維持することによる細胞毒性への影響が懸念されます.従って胆汁中排泄された薬物の迅速かつ定量的なin vitro評価系の樹立が課題となっています.
そこで,培養器材側に開いた胆管腔を有する肝細胞培養系を樹立できれば,透過試験により薬物の胆汁中排泄過程を経細胞輸送として容易に評価可能となりSCHの問題点を克服した新規評価系に成り得ると考えました.

 本研究では,胆管腔形成に重要な密着結合の主要因子であるclaudinをコーティングした培養器材で肝細胞を培養することにより,器材側に開いた胆管腔を有する肝細胞: induced open-form bile canaliculus hepatocyte (icHep)の樹立に至りました.このicHepを用いて胆汁中排泄トランスポーターの典型基質を用いた透過試験を行ったところ,各基質の血液側から胆汁側への一方向性輸送が確認されました.さらに,icHepから推定された薬物の胆汁中排泄クリアランスは,報告されたヒトのin vivoクリアランスと良好な相関を示しました.したがって,icHep透過試験系を胆汁中排泄された薬物の簡便かつ迅速な回収と,胆汁中排泄クリアランスの推定を可能とする新たな胆汁中排泄評価系として利用できると考えています.

 最後に,本研究を遂行するにあたりご指導頂きました当研究室の玉井郁巳教授,荒川 大准教授,白坂善之准教授並びに学生,共同研究者の皆様に深く御礼申し上げます.