Newsletter Volume 38, Number 1, 2023

受賞者からのコメント

顔写真:石田尚輝

ベストポスター賞を受賞して

金沢大学薬学系 分子薬物治療学研究室
石田尚輝

 この度は,日本薬物動態学会第37回年会におきまして,ベストポスター賞を戴きまして,大変光栄に思っております.ご審査頂きました選考委員の先生方,ならびに発表の機会を与えて頂きました年会長の平林英樹先生,日本薬物動態学会関係者の皆様に,厚く御礼申し上げます.Capecitabineは5-fluorouracilの経口プロドラッグであり,大腸がんや乳がんなど様々な固形がんに対する薬物療法において重要な役割を担っています.これまでゲノムワイド関連解析により,手足症候群のリスクがorganic anion transporter 2 (OAT2/SLC22A7)遺伝子変異(rs2270860, C>T)と関連することが明らかにされていましたが,その分子機序は不明でした.Capecitabineは肝臓の小胞体内腔に触媒部位を有するcarboxylesterase (CES)により加水分解を受け活性化されます.私たちはOAT2がcapecitabineの小胞体膜透過に関わるとの仮説を立て,肝臓でのcapecitabine加水分解におけるOAT2の役割を解明することを試みました.Capecitabineのヒトでの体内動態にOAT2が関与するかを調べるため,大腸がん患者において,OAT2遺伝子変異とcapecitabine血漿中濃度プロファイルとの関係を調べました.その結果,rs2270860をもつ患者におけるcapecitabineの半減期は野生型と比べ長いことが示されました.次にOAT2の細胞内局在を明らかにするためヒト肝切片を用いた免疫染色を行ったところ,OAT2が小胞体に局在することが示されました.さらに,ヒト初代培養肝細胞におけるcapecitabineの加水分解産物生成量は,OAT2阻害薬ketoprofenの共存下で減少しました.一方,ketoprofenによるcapecitabineの細胞内取り込みに及ぼす影響は認められず,またalamethicinにより小胞体膜を透過処理したヒト肝ミクロソームにおけるcapecitabineの加水分解活性はketoprofenにより阻害されませんでした.これらの結果から,capecitabineの小胞体取り込み過程にOAT2が関与し,capecitabineのヒト血中滞留性を制御することが示唆されました.今後はOAT2の遺伝子変異に伴うタンパク質発現及び機能への影響,手足症候群との関連について調べていきたいと考えています.最後になりましたが,本研究の遂行に際しましてご指導頂いた金沢大学 荒川 大准教授,加藤将夫教授,昭和大学 藤田健一教授,松本奈都美講師,ならびに分子薬物治療学研究室の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.