ニュースレター編集委員会より

はじめに

 遅ればせながらですが,新年あけましておめでとうございます.新型コロナウィルス(Covid-19)の感染拡大がはじまってもうすぐ丸2年が経とうとしていますが,2022年もまた新変異株(オミクロン株)の急激な拡大で幕を開けました.なかなか終わりが見えないこの状況の中で,皆さんも日々新たな環境下で研究に邁進されていることと思います.身の回りにおいても,週数回を在宅勤務という働き方だけでなく,例えば午前中は実験,午後はデータ整理・解析と会議資料作成,会議参画等々を在宅勤務で実施するといった形で業務を進めることも,もはや当たり前になってきました.このようなオンサイト・オンラインを併用した “New Normal” での働き方は,コロナ禍が収束して以降も続くことになるでしょうが,双方のメリットを最大限活かしながら効率的に業務を進めることで,より自由な発想でのアイデア発出に時間を使えるようにしていければと思っています.と申しつつ,今年の横浜年会の折には,久々にface to faceで皆様と直接議論を交わせる状況になっていることを切に願っておりますが.

 ところで・・・皆様,新年の計は立てられましたでしょうか?自分は一念発起して,長く放置してしまっていたE. Guitarを再開することにしました.そのまま独習するのは自分の性格的にすぐ怠けてしまうので,それを防ぐべく個人レッスンを申し込んで本格的に習得することにしました.Something newに取り組むのはいつでもワクワクするもの.思い通りにはなかなか進まないでしょうが,考えてみれば医薬品の研究開発も同じことですよね(いや,はるかに大変でしょうが・・・).今度こそは挫けずに楽しみながら続けていきたいと思っています.

 薬物動態学も,近年の様々な革新的技術・サイエンスの発展を取り込みながら,新たな知の創造に向けて日々発展してきています.その起点となるべく,ニュースレターにおいても,薬物動態学に関わる最新の知見や関連分野の先端科学について,情報発信できる場にしていきたいと思っています.引き続き皆様のご支援・ご協力のほど,どうぞよろしくお願い申し上げます.(Y.N.)

【トピックス】

  • ベストオーラル賞,ベストポスター賞受賞者への本音アンケート

【受賞者からのコメント】

  • ベストオーラル賞を受賞して(北村啓太)
  • ベストオーラル賞を受賞して(石井まり)
  • ベストオーラル賞を受賞して(ジョーンズ ヘイリーさくら)
  • ベストオーラル賞を受賞して(佐藤 翔)
  • ベストポスター賞を受賞して(赤下 学)
  • ベストポスター賞を受賞して(鮒井悠汰)
  • ベストポスター賞を受賞して(青木重樹)
  • ベストポスター賞を受賞して(佐孝大樹)
  • ベストポスター賞を受賞して(戸上紘平)
  • ベストポスター賞を受賞して(竹村晃典)
  • ベストポスター賞を受賞して(伊藤 涼)
  • ベストポスター賞を受賞して(美馬伸治)
  • ベストポスター賞を受賞して(中山美有)

【DMPK 42に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」】

  • NOG-TKm30マウスを基盤としたヒト肝キメラマウスの作製と薬物動態解析への応用
  • 薬物の中枢移行に対するBCRPの役割とその定量的解析
  • サル,イヌ及びマウスにおけるP-gp及びBCRP基質の脳移行特性
  • CYP2C9 代謝活性に対する果汁飲料成分bergamottin,dihydroxybergamottin,及びresveratrolの阻害キネティクス解析
  • カニクイザルABCトランスポーターの同定と組織発現
  • 細胞分泌小胞エクソソーム:乳がんにおける疾患進展への関与,診断・薬物送達への利用
  • ゲノム編集技術の開発と変遷,その医療応用への展望
  • 感染症に対するアデノウイルスベクターワクチン

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トピックス

ベストオーラル賞,ベストポスター賞受賞者への本音アンケート

 昨年11月の第36回年会では,一般演題から,4件のベストオーラル賞と9件のベストポスター賞が選出されました.ニュースレターでは,受賞者の先生方からコメントを寄せていただきましたが,受賞者の本音を探るため,匿名でのアンケートもさせていただきました.受賞の要因を自己分析してもらってもいます.今年の年会での受賞を目指し,日夜研究に励まれている会員の皆様,大いに参考にしていただければ幸いです.・・・(続きはNLホームページへ

受賞者からのコメント

顔写真:北村啓太

ベストオーラル賞を受賞して

千葉大学大学院 医学薬学府 薬物学研究室/
東京薬科大学 薬学部 個別化薬物治療学教室
北村啓太

 この度は、日本薬物動態学会第36回年会におきまして、ベストオーラル賞という栄誉ある賞を頂き大変光栄に思います。ご審査頂きました先生方、ならびに日本薬物動態学会関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

 近年、新たな脳疾患治療薬として、脳移行性を有する高分子薬の開発が進められています。高分子薬は受容体を介して血液脳関門(blood-brain barrier, BBB)を通過すると考えられており、この経路は受容体介在性トランスサイトーシス(receptor-mediated transcytosis, RMT)として知られています。したがって、脳移行性を有する高分子薬の開発では、RMTを介した候補薬のヒトBBB透過性を評価することが必要であり、・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:石井まり

ベストオーラル賞を受賞して

慶應義塾大学薬学部薬剤学講座
石井まり

 この度は,日本薬物動態学会第36回年会におきまして,ベストオーラル賞を賜り光栄に存じます.年会長の荻原琢男先生,ご審査頂きました先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者の皆様に心より御礼申し上げます.

 胎児発育不全および妊娠高血圧症候群は,周産期の母親および胎児の生存に関わる疾患であることから,その治療法が広く探索されています.タダラフィルおよびシルデナフィルといったホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬は,・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:ジョーンズ ヘイリーさくら

ベストオーラル賞を受賞して

千葉大学大学院 薬学研究院 臨床薬理学研究室
ジョーンズ ヘイリーさくら

 この度,日本薬物動態学会第36回年会において,ベストオーラル賞という栄誉ある賞をいただき誠にありがとうございます.この場を借りて,選考委員の先生方および日本薬物動態学会関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.

 近年,免疫チェックポイント阻害剤は新たながん治療法の一つとして期待されています.しかし,その奏効率は2割程度にとどまっていることや,一部の患者では重篤な副作用を引き起こすことが課題として挙げられています.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:佐藤 翔

ベストオーラル賞を受賞して

武田薬品工業株式会社 リサーチ 薬物動態研究所
佐藤 翔

 この度は,「Translational Neuropharmacokinetic Model in Preclinical Species and Human for Quantitative Prediction of Brain-to-Plasma and Cerebrospinal Fluid-to-Plasma Unbound Partitioning」という演題でベストオーラル賞という名誉ある賞をいただきまして誠にありがとうございます.審査いただきました選考委員の先生方をはじめとして日本薬物動態学会の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.

 バイオ医薬品の台頭が目覚ましい中,中枢疾患領域においては依然として低分子医薬品が主要なモダリティーとなっています.脳-血液関門 (BBB) 透過の観点で,低分子医薬品がその他のモダリティーの医薬品と比べて優れていることが要因の一つとして考えられています.しかしながら,・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:赤下 学

ベストポスター賞を受賞して

帝京大学 薬学部 臨床薬学講座 製剤学研究室
赤下 学

 日本薬物動態学会第36回年会において,ベストポスター賞に選出くださり誠にありがとうございます.年会長の荻原琢男先生をはじめ,ご審査いただきました選考委員の先生方,日本薬物動態学会関係各位に深く感謝申し上げます.

 抗精神病薬はドパミンD2,5-HT2A,ヒスタミンH1,アセチルコリン性ムスカリン(mAch)受容体を阻害することにより効果を示します.一方で,これら受容体の過度の阻害は,錐体外路障害,過剰な鎮静,認知機能障害リスクが高くなります.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:鮒井悠汰

ベストポスター賞を受賞して

金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科 薬学専攻 薬物動態学研究室
鮒井悠汰

 この度,日本薬物動態学会第36回年会において,大変名誉あるベストポスター賞を授与いただき,誠にありがとうございます.年会長の荻原琢男先生をはじめ,ご審査いただきました選考委員の先生方,日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.

 下痢や便秘などの消化器毒性は,医薬品の副作用として最も高頻度で出現する症状の一つであり,円滑な医薬品開発を実現する上で,その評価・予測を適切に行うことは重要です.しかし,・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:青木重樹

ベストポスター賞を受賞して

千葉大学大学院薬学研究院 生物薬剤学研究室
青木重樹

 この度は,日本薬物動態学会 第36回年会におきまして,「HLA-B*57:01遺伝子導入マウスを用いた免疫抑制因子の排除によるアバカビル依存的特異体質毒性の再現」の演題でベストポスター賞を賜り,選考に携わられました諸先生方に厚く御礼申し上げます.

 医薬品による副作用には,特定の遺伝子・環境の違いによって現れる個人差が存在します.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:佐孝大樹

ベストポスター賞を受賞して

帝京大学大学院 薬学研究科 薬物動態学研究室
佐孝大樹

 この度の日本薬物動態学会第36回年会では,ベストポスター賞という栄誉ある賞を授かりまして,大変光栄に存じます.年会長の荻原琢男先生を始め,ご審査いただきました選考委員の先生方並びに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.

 血液脳関門 (BBB) は脳毛細血管の内皮細胞同士が強力な密着結合を形成していることに加え,細胞膜に発現する様々なトランスポーターの協働的機能連関により薬物の中枢への移行が制御されています.このようにBBB透過性は単純な脂質膜透過性のみでの予測が困難であることから,代替となるin vitro評価系の創製が望まれていました.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:戸上紘平

ベストポスター賞を受賞して

北海道科学大学薬学部 薬剤学分野
戸上紘平

 この度,日本薬物動態学会第36回年会におきまして,「Improving of nintedanib pharmacokinetics and the anti-fibrotic effect by intrapulmonary administration of nintedanib-cyclodextrin inclusion complex in pulmonary fibrosis mice」という演題で,ベストポスター賞という名誉ある賞を賜り,大変光栄に思います.年会長の荻原琢男先生をはじめ,ご審査いただきました選考委員の先生方,並びに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.

 特発性肺線維症 (Idiopathic pulmonary fibrosis; IPF) は,肺組織の高度線維化により蜂巣肺を形成し,呼吸器機能の低下をきたす予後不良の難治性疾患です.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:竹村晃典

ベストポスター賞を受賞して

千葉大学大学院 薬学研究院 生物薬剤学研究室
竹村晃典

 この度,日本薬物動態学会第36回年会において,ベストポスター賞という栄誉ある賞を頂き,誠にありがとうございます.ご審査いただきました先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼を申し上げます.

 薬物性肝障害は安全性の懸念から市場撤退する主たる原因となるため,臨床入りの前段階でそのポテンシャルを予測することが重要です.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:伊藤 涼

ベストポスター賞を受賞して

小野薬品工業株式会社 ニューロロジー研究センター
伊藤 涼

 この度は,日本薬物動態学会ベストポスター賞を賜り,大変光栄に存じます.御審査頂いた選考委員の先生方に心より御礼申し上げます.研究題目は「ヒト不死化細胞血液脳関門共培養モデルの開発とその薬物脳移行性予測への応用性検証」であり,in vitro実験と数理モデルを組み合わせたヒト脳内薬物濃度予測法の開発に取り組んでいます.中枢創薬において,血液脳関門を介した薬物の中枢移行性予測は重要な課題です.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:美馬伸治

ベストポスター賞を受賞して

富士フイルム株式会社
ライフサイエンス事業部 兼 バイオサイエンス&エンジニアリング研究所
美馬伸治

 この度,日本薬物動態学会第36回年会において,「ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞の特性と薬物吸収評価モデルへの応用」という演題にて,ベストポスター賞という栄誉ある賞を授かり,大変光栄に存じます.ご審査いただきました選考委員の先生方および日本薬物動態学会の皆様に心より御礼申し上げます.

 経口薬剤は幅広く用いられている薬剤の形態です.効率的な経口薬剤の開発には消化管,特に小腸からの吸収予測は極めて重要な課題です.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:中山美有

ベストポスター賞を受賞して

武田薬品工業株式会社 薬物動態研究所
中山美有

 この度は,第36回薬物動態学会年会において『Establish of a simple and versatile cell quantification method by droplet digital PCR using single surrogate calibration curve for various biological samples』という演題で,ベストポスター賞を賜りました.このような大変栄誉ある賞を頂き光栄に存じます.選考委員の先生方,ならびに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.

 細胞治療製品の生体内分布は,その有効性と安全性に深く関連しているため,生体試料中の細胞数を定量的に評価することは極めて重要です.・・・(続きはNLホームページへ

DMPK 42に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

NOG-TKm30マウスを基盤としたヒト肝キメラマウスの作製と薬物動態解析への応用

Uehara, S., et al.

 我々は新たなヒト肝細胞移植マウスNOG-TKm30を作製し,従来型TK-NOGマウスの雄性不妊と雌性のガンシクロビル低感受性の問題を克服した.NOG-TKm30ヒト肝キメラマウスでは,雌雄ともにヒトアルブミンが高いレベル(約15mg/mL血漿)で12週以降も維持された.キメラマウス肝におけるCYP1A2/2C9/2D6/2E1/3A4酵素の分布はヒト肝組織と同様であった.リファンピシンをNOG-TKm30ヒト肝キメラマウスに反復経口投与したところ,肝CYP3A/2C酵素の発現誘導に伴い,ミダゾラムおよびオメプラゾール経口投与時のAUCの減少が認められ,薬物間相互作用をin vivoで観察できるモデルであることが示された.また,NOG-TKm30モデルでは妊娠ヒト肝キメラマウスを作製することが可能になり,母体に経口投与したサリドマイドの代謝物5-hydroxy体およびdihydroxy体が胎子血漿中で検出されることを示した.今後,薬物動態,および,安全性研究領域で,NOG-TKm30ヒト肝キメラマウスが活躍することを願っている.

[Regular Article]

薬物の中枢移行に対するBCRPの役割とその定量的解析

Katagiri, Y., et al.

 BCRPは血液脳関門において中枢神経系への薬物移行を制限しているが,BCRP基質の多くはP-gp基質でもあるためBCRP単独の影響を評価することが難しく,薬物の中枢移行性に対するBCRPの定量的な影響は未だ明らかになっていない.本研究では,BCRP特異的基質およびP-gp/BCRP dual基質を用いてラットにおける脳およびCSF移行性に対するBCRPの影響を検討した.その結果,中枢移行性に対するBCRPの影響はBCRP-MDCK II細胞から求めた輸送活性と正の相関関係にあり,同程度のin vitro BCRP輸送活性を示すBCRP特異的基質・P-gp/BCRP Dual基質間で同程度であった.さらに,BCRPは基質のCSF移行よりも脳移行を強く制限していることが明らかになった.本研究はBCRP基質となる医薬品候補化合物の中枢への分布を理解する一助となると考えている.

[Regular Article]

サル,イヌ及びマウスにおけるP-gp及びBCRP基質の脳移行特性

Kido, Y., et al.

 CNS創薬では早期ステージのin vivo薬効評価や脳移行性の解析にマウス(齧歯類)を用い,構造最適化が進んだ化合物のヒト薬効予測や安全性マージンの見積りにサルやイヌ(非齧歯類)を用いることが多い.これら動物種の血液脳関門におけるP-糖蛋白質(P-gp)やbreast cancer resistance protein(BCRP)の発現量に種差が見られるが,非齧歯類,特にイヌの薬物脳移行性に関する情報は少ない.我々はP-gpやBCRPが生じる薬物脳移行性の種差を理解するため,P-gpやBCRPノックアウトマウスを用いて種々のP-gpの弱い基質,強い基質及びBCRPの基質を選び,サル,イヌ及びマウスの脳移行性や非齧歯類の脳脊髄液への移行性を比較した.本稿は非齧歯類の脳移行性を実測できる機会が限られている中,5年かけて収集したデータをまとめており,CNS創薬にご活用いただければ幸いである.

[Regular Article]

CYP2C9 代謝活性に対する果汁飲料成分bergamottin,dihydroxybergamottin,及びresveratrolの阻害キネティクス解析

Akiyoshi, T., et al.

 本研究では薬物代謝酵素 cytochrome P450 (CYP) 2C9に対する2種のグレープフルーツジュース (GFJ) 成分 (bergamottin; BG, dihydroxybergamottin; DHB),及び果実由来成分で健康食品などとして用いられている resveratrol (Resv) の阻害特性を in vitro で評価した.その結果,2種の GFJ 成分はいずれもCYP2C9の活性を時間依存的に阻害 (mechanism-based inactivation; MBI) し,これは CYP2C19,CYP3A4に対する阻害様式と同じであった.一方 Resv は CYP2C9 を非競合的に阻害したが,GFJ 成分と異なり MBI は示さなかった.以上の結果から,GFJ や Resv を摂取すると,小腸 CYP2C9 の阻害を介した薬物相互作用が起きる可能性が見出された.さらに,GFJ の影響は,長時間持続することが考えられる.

[Note]

カニクイザルABCトランスポーターの同定と組織発現

Uno, Y., et al.

 ABCトランスポーターはgene familyを形成しており,ヒトではMDR1(ABCB1,P-gP)を始め,薬物動態に重要な分子種がいくつか同定され機能が解析されている.本研究では,医薬品開発で重要な動物種であるカニクイザルにおいて,重要なヒトABCトランスポーターのオーソログを同定し解析した.これらのサルABCトランスポーターは対応するヒト分子種に高い相同性を示し,進化系統樹でヒト分子種に近い位置を占め,遺伝子・ゲノム構造や遺伝子発現の組織特異性がヒト遺伝子に概ね似ていた.以上の結果から,これらのABCトランスポーターは分子レベルでカニクイザルとヒトでよく似た特徴を有していることが示唆された.本研究成果は,これまでに明らかになっているABCトランスポーター機能の情報に加え,カニクイザルの薬物動態を理解する上で有用な知見になるものと期待される.

[Review Article]

細胞分泌小胞エクソソーム:乳がんにおける疾患進展への関与,診断・薬物送達への利用

Nakase, I. and Takatani-Nakase, T.

 生体を構成する殆ど全ての細胞が分泌する小胞「エクソソーム」は,microRNAや酵素等の生理活性分子を内包し,体内でそれらの“メッセージ分子”を運ぶことで,細胞間コミュニケーションに大きく関わっています.疾患関連細胞においても,エクソソームを介したコミュニケーションが,疾患進展に大きく影響することが明らかにされ,転移も含むがんの悪性化へのエクソソームの寄与が大きく注目されています.本総説では,乳がんにおけるエクソソームの疾患進展への関与(特徴的なエクソソーム内包microRNA,及び,シグナル伝達等)や,リキッドバイオプシーでの単離エクソソームを用いた診断方法,加えて,エクソソームを薬物送達運搬体として用いた治療基盤技術の開発を中心に,我々の研究(機能性ペプチド修飾型エクソソーム技術)も含めて最新の知見・技術をまとめました.本総説がエクソソームの基礎,及び,最近の研究動向の理解に少しでもお役立て頂けるよう願っております.

[Review Article]

ゲノム編集技術の開発と変遷,その医療応用への展望

Nakao, J., et al.

 核酸医薬のターゲットは,翻訳過程や転写後プロセシングの制御を狙った「mRNA」から,遺伝子疾患等の根治を目指した「ゲノムDNA」へと変遷しつつある.中でも,CRISPR/Cas9システムに代表されるゲノム編集ツールは,遺伝子疾患治療法の一つとして現在最も注目を集めており,急速に開発が進められている.本総説では,ゲノム編集技術を大きく発展させた様々なゲノム編集ツールについて概説し,その医療展開における課題について概説した後,次世代のゲノム編集として期待される「人工核酸を用いたゲノム編集技術」について紹介した.本格的に臨床応用も始まる中で,この技術が我々の身近な医薬品として普及するには,今後も分野の垣根を超えた様々な異分野融合研究が必要であると考えられる.本稿が,読者の方々に,ゲノム編集技術の医療応用を身近なものとして感じて頂く一助となったのであれば幸甚である.

[Review Article]

感染症に対するアデノウイルスベクターワクチン

Sakurai, F., et al.

 人類の歴史は,感染症との戦いの歴史である.近代に入り,感染症患者が大きく減少したことで感染症の脅威は忘れさられようとしていたが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は,感染症が依然として人類の脅威であることを我々に思い出させた.感染症に対する最も効果的な対抗策は,ワクチンである.特に開発スピードという点を考慮すると,COVID-19のような新興感染症に対しては,核酸を基盤としたワクチンが望ましいと考えられる.なかでもアデノウイルス(Ad)を基本骨格としたAdベクターワクチンは,高効率な抗原遺伝子の発現能や適度な自然免疫活性化能を有していることから大きな期待を集めており,種々の感染症に対するワクチンとして臨床開発が進められている.本総説では,Adベクターの基本的な特性,ワクチンベクターとしての有用性に加えて,世界各国で承認されているCOVID-19に対するAdベクターワクチンについても解説した.本総説が,今後起こりうるパンデミックに対するワクチン開発の一助となることを期待する.

新たな挑戦 動物からヒトへ【積水メディカル株式会社創薬支援事業部】
標識体合成から創薬・開発申請まで【株式会社ネモト・サイエンス】