Newsletter Volume 37, Number 1, 2022

受賞者からのコメント

戸上紘平

ベストポスター賞を受賞して

北海道科学大学薬学部 薬剤学分野
戸上紘平

 この度,日本薬物動態学会第36回年会におきまして,「Improving of nintedanib pharmacokinetics and the anti-fibrotic effect by intrapulmonary administration of nintedanib-cyclodextrin inclusion complex in pulmonary fibrosis mice」という演題で,ベストポスター賞という名誉ある賞を賜り,大変光栄に思います.年会長の荻原琢男先生をはじめ,ご審査いただきました選考委員の先生方,並びに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.

 特発性肺線維症 (Idiopathic pulmonary fibrosis; IPF) は,肺組織の高度線維化により蜂巣肺を形成し,呼吸器機能の低下をきたす予後不良の難治性疾患です.特に,呼吸困難によるquality of lifeの低下と極めて高い致死率が大きな問題とされており,有用性に優れた治療法の確立が急務です.本邦ではIPF治療薬としてピルフェニドンとニンテダニブの2種の抗線維化薬が承認されていますが,いずれも全身性の副作用の発現により治療可能な投与量まで増量することが難しいケースがあります.そのため,新たな治療薬候補化合物の開発研究を進めると共に,副作用を軽減できるより選択的に肺内の病巣へ薬物を送達する技術も必要とされています.

 我々はこれまでに,種々の難治性呼吸器疾患治療の最適化を指向して,肺内における薬物動態解析および肺投与型ドラッグデリバリーシステムの構築研究を進めてきました.本研究では,高い疎水性を有するニンテダニブの線維化肺における動態を改善するために,シクロデキストリン誘導体を用いて肺投与型製剤の構築を試みました.まず,ニンテダニブの可溶化力と肺の細胞に対する毒性の観点から,最適なシクロデキストリン誘導体を検討したところ,ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリンが最も肺投与に優れていることが示されました.ブレオマイシン誘発性肺線維症モデルに,調製したニンテダニブーヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン包接体を肺投与したところ,ニンテダニブの肺内における平均滞留時間(MRT)が2.4倍に延長しました.さらに,繰り返し投与を行うことで,高い抗線維化作用が得られました.今後はこの知見を基に,さらに高度な機能を搭載した肺線維症治療のための肺投与型ドラッグデリバリーシステムを開発したいと考えています.

 最後になりますが,本研究の遂行に際しましてご指導いただきました当研究室の丁野純男教授ならびに共同研究者の皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます.