Newsletter Volume 37, Number 1, 2022

受賞者からのコメント

写真:佐孝大樹

ベストポスター賞を受賞して

帝京大学大学院 薬学研究科 薬物動態学研究室
佐孝大樹

 この度の日本薬物動態学会第36回年会では,ベストポスター賞という栄誉ある賞を授かりまして,大変光栄に存じます.年会長の荻原琢男先生を始め,ご審査いただきました選考委員の先生方並びに日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.

 血液脳関門 (BBB) は脳毛細血管の内皮細胞同士が強力な密着結合を形成していることに加え,細胞膜に発現する様々なトランスポーターの協働的機能連関により薬物の中枢への移行が制御されています.このようにBBB透過性は単純な脂質膜透過性のみでの予測が困難であることから,代替となるin vitro評価系の創製が望まれていました.当研究室ではヒトiPS細胞から分化誘導した脳毛細血管内皮細胞 (hiPS-BMECs) が強力な密着結合性と主要なトランスポーター機能を有している新たなBBBモデルになることを報告してきました1,2).最近では,BBBの微小環境を模倣した3次元 (3D) 培養モデルに着目した研究を進めています.中でもMIMETAS社OrganoPlate® 3-laneは管腔構造の形成と血流を模したflowが実現できるため,2次元 (2D) 培養に比してより生体に近い培養装置であると言われています3).実際に生理的環境下では,血流のshear stressに依存したバリア機能の向上が報告されています4)

 これらの背景に基づき,本研究では,gabapentinやL-DOPAなどの中枢への送達に関与するL-type amino acid transporter 1 (LAT1/SLC7A5) に関して,3D培養したhiPS-BMECsの輸送機能評価を実施し,2D培養と比較しました.

 LAT1の基質であるgabapentinの輸送は,2D培養において血液側から脳側への透過クリアランスと,脳側から血液側への透過クリアランスが同程度であったのに対し,3D培養においては血液側から脳側への輸送が優位となる結果が得られました.免疫染色では,血液側細胞膜に局在するBCRPとの共染色像が得られ,3D培養によってLAT1の血液側細胞膜に優位な局在性が示されました.以上の結果は,bovineにおけるLAT1を介した輸送の方向性と一致しており5),3D培養したhiPS-BMECsがヒトBBBにおいてもLAT1の機能を評価する上で有用である可能性が示されました.

 今後は,ペリサイトやアストロサイトを含めた共培養系の確立と輸送体機能の評価,臨床データとの比較解析を行い,薬物の中枢移行性が精度よく予測できるin vitroモデル(BBB-on-a-chip)の構築を目指したいと考えています.

 最後になりますが,本研究をご指導賜りました出口芳春教授,久保義行准教授,黒澤俊樹助教,ご協力賜りました共同研究者の皆様に深く御礼申し上げます.

 

  1. Kurosawa et al. Mol Pharm. 2018;15(12):5546-5555.
  2. Kurosawa et al. J Pharm Sci. 2021;110(10):3484-90.
  3. Wevers et al. Fluids Barriers CNS. 2018;15(1):23.
  4. Cucullo et al. BMC Neurosci. 2011;12:40.
  5. Pino et al. J Biol Chem. 1995;270(25):14913-14918.