Newsletter Volume 37, Number 1, 2022

受賞者からのコメント

鮒井悠汰

ベストポスター賞を受賞して

金沢大学大学院 医薬保健学総合研究科 薬学専攻 薬物動態学研究室
鮒井悠汰

 この度,日本薬物動態学会第36回年会において,大変名誉あるベストポスター賞を授与いただき,誠にありがとうございます.年会長の荻原琢男先生をはじめ,ご審査いただきました選考委員の先生方,日本薬物動態学会関係者各位に厚く御礼申し上げます.

 下痢や便秘などの消化器毒性は,医薬品の副作用として最も高頻度で出現する症状の一つであり,円滑な医薬品開発を実現する上で,その評価・予測を適切に行うことは重要です.しかし,薬物によって誘発される消化器毒性の発現機構については,複数の因子が交錯する為,その詳細は依然として明らかではありません.そこで我々は,その発現機構規定因子として,「Serotonin (5-HT)」の消化管内動態に着目しました.消化管ホルモンの一つである5-HTは,脳機能調節と共に,一連の消化管生理機能との関連性が推察されています.しかし,消化管管腔に存在する5-HTの生理的意義,薬物作用/応答性についてはほとんど明らかになっていません.そこで本研究では,薬物による消化器毒性発現機構を定量的に解明することを目的として,下痢などの消化器症状の発症率が高いmetforminをモデル薬物として用い,5-HTの消化管動態変動が及ぼす水分調節機能への影響に関する詳細な検討を試みました.

 本研究からmetforminの消化器毒性発現メカニズムが,吸収トランスポーター(SERT等)を介した5-HT吸収阻害に起因した管腔内5-HTレベルの上昇と,それに伴う管腔内Clイオンの上昇に起因する可能性が示唆されました.本研究成果は,消化管内水分挙動が,管腔内5-HT動態に起因する可能性を示唆しており,新たな水分調節機構を提唱するものです.医薬品を含む外的刺激に伴う5-HT応答性を評価することは,消化管水分挙動を含む消化管生理環境を理解する上で非常に有用となる可能性が示されました.

 最後になりましたが,本研究の遂行に際してご指導いただいた当研究室の白坂善之准教授,玉井郁巳教授,小森久和助教,ならびに学生の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.