Newsletter Volume 37, Number 1, 2022

受賞者からのコメント

写真:青木重樹

ベストポスター賞を受賞して

千葉大学大学院薬学研究院 生物薬剤学研究室
青木重樹

 この度は,日本薬物動態学会 第36回年会におきまして,「HLA-B*57:01遺伝子導入マウスを用いた免疫抑制因子の排除によるアバカビル依存的特異体質毒性の再現」の演題でベストポスター賞を賜り,選考に携わられました諸先生方に厚く御礼申し上げます.
 医薬品による副作用には,特定の遺伝子・環境の違いによって現れる個人差が存在します.それらの副作用を特異体質性薬物毒性(idiosyncratic drug toxicity; IDT)といい,近年,IDTとヒト白血球抗原(human leukocyte antigen; HLA)多型との関連が示唆されています.特定のHLAは薬物と相互作用し,異常な免疫反応を惹起すると考えられています.その代表例が,HLA-B*57:01と抗HIV薬アバカビルとの関連です(オッズ比は900倍以上).

 しかし,IDTを考えるうえでHLA多型の重要性は認識されているものの,その発症メカニズムは十分に解明されていませんでした.そこで我々は,HLA遺伝子導入マウスを作製し,その毒性機序への突破口を開こうと試みました(Susukida et al. Arch Toxicol. 2018).しかし,HLA-B*57:01を導入したマウス(B*57:01-Tg)にアバカビルを投与するだけでは,免疫の活性化は起こるものの,ヒトで認められるような顕著な毒性は表れませんでした.

 実際に,特定のHLA多型を有しているからといって,必ずしも副作用を発症するわけではありません.アバカビルによる過敏症の発症頻度はHLA-B*57:01保有患者の約半数です.つまり,原因となるHLAを有しているにもかかわらず薬物副作用が生じない何かしらの機構の存在が示唆されます.そこで着目したのが,抑制性免疫(免疫のブレーキ)です.我々は,B*57:01-Tgにおいて抑制性免疫(PD-1やCD4+ T細胞)の排除を行い,アバカビルの投与を行いました.すると,発赤を含む顕著な炎症様症状や細胞傷害性T細胞の強い活性化が認められ,抑制性免疫がHLA依存的な薬物毒性発症のブレーキとして機能していることが示唆されました(Susukida and Kuwahara et al. Commun Biol. 2021).近年,免疫チェックポイント阻害薬による重篤な副作用が示唆されていることからも,IDTと抑制性免疫は密接な関係にあると考えられています.

 最後に,本研究を実施するにあたりご指導を賜りました当研究室の伊藤晃成先生に深く感謝するとともに,研究を遂行してくださった学生(卒業生)や共同研究者の皆様に深く御礼申し上げます.