Newsletter Volume 37, Number 1, 2022

受賞者からのコメント

赤下学

ベストポスター賞を受賞して

帝京大学 薬学部 臨床薬学講座 製剤学研究室
赤下 学

 日本薬物動態学会第36回年会において,ベストポスター賞に選出くださり誠にありがとうございます.年会長の荻原琢男先生をはじめ,ご審査いただきました選考委員の先生方,日本薬物動態学会関係各位に深く感謝申し上げます.

 抗精神病薬はドパミンD2,5-HT2A,ヒスタミンH1,アセチルコリン性ムスカリン(mAch)受容体を阻害することにより効果を示します.一方で,これら受容体の過度の阻害は,錐体外路障害,過剰な鎮静,認知機能障害リスクが高くなります.各受容体占有率を測定することによりリスク評価が可能となりますが,実臨床を反映した多剤併用時の受容体占有率は明らかにされていません.我々は,非標識トレーサーを用いることにより,従来の標識トレーサー実験では不可能な,薬効・副作用発現に関わる複数受容体の同時測定が可能となり,トレーサー調達コスト低減や管理の簡易化,実験の効率化が期待できると考え着手しました.

 本研究では,7週齢雄性Wistarラットを用いて,ドパミンD2,5-HT2A,ヒスタミンH1,mAch受容体の各非標識トレーサー投与量と測定時点の最適条件を,ディスプレイサー投与実験から特異的結合量算出方法を決定しました.被検薬の経口投与による特異的結合減少率から受容体占有率を求めたところ,クロルプロマジンおよびリスペリドンがドパミンD2受容体を50%占有する投与量(ED50)は,標識トレーサーを用いた報告値と同等でした.また,両被検薬の5-HT2A,ヒスタミンH1,mAch受容体への結合親和性を反映した受容体占有率が得られました.以上より,非標識トレーサーを用いて抗精神病薬が作用する複数の脳内受容体占有率同時測定が可能になりました.今後,動物モデルを用いて臨床用量での単剤,多剤併用時の受容体占有率の経時的推移を明らかにし,受容体占有率に基づいた抗精神病薬の安全で有効な投与設計の実現に貢献したいと考えています.

 最後になりましたが,本研究の遂行に際してご指導いただいた当研究室の黄倉 崇教授,中谷絵理子助教,学生の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.