Newsletter Volume 30, Number 2, 2015

学会 道しるべ

第9回次世代を担う若手医療薬科学シンポジウム
2015年11月7日~8日

主催団体 日本薬学会医療薬科学部会
会場 千葉大学大学院薬学研究院 120 周年記念講堂(亥鼻キャンパス)
特色など 「医療薬科学」を実践する若手研究者の発展・育成を目指す集会.異分野・異職種 同士の参加者による熱情と議論,若手研究者と学生の交流の場.(飲み会も熱い.)

医療薬科学は,医療を科学的・学際的に発展させるフィールド

 日本薬学会医療薬科学部会の若手世話人による「次世代を担う若手医療薬科学シンポジウム」(以下,本シンポジウム)は6年制教育がスタートした翌年,2007年に発足しました.親部会である医療薬科学部会が発足してから数年が経過した頃です.医療薬科学分野は,臨床教育の重点化がなされた新教育体制を享受する学生たちの活躍する場としてますますスポットライトを浴び始めており,またそこで実際に力を発揮できる人材の育成が急がれていました.若手世話人による本シンポジウムの発足は,まさに能動的に次世代を育成するための布石でした.実際に立ち上げに携わった第一世代の若手世話人方の類まれなる努力とリーダーシップの結果,本シンポジウムは着実な成長を遂げてきたといえます.

 では具体的に医療薬科学研究とはどのようなフィールドでしょうか.私なりにまとめてみたいと思います.医療現場は,患者個人の多様性に加えて取り巻く医療スタッフの職種も背景も様々ですが,言うまでもなく情報を共有してチームとして機能することが必然となっています.一方,医療器具や設備は施設によって異なる可能性があり,また患者の置かれた社会的状況や家族との関係性,それらに反映される精神状態も治療効果に関わります.このようにあらゆる偶発性に満ちた世界ではありますが,まず,①想像力を発揮して起こりそうな事象を予測すること・逆に発生した事象の要因を推察することである程度の偶発性をカバーできるでしょう.また,②個々人に適した治療やケアを適切に選択し,かつ臨機応変に方針を練り直す判断力が求められます.さらに,たくさんの職種が共同する現場にあっては,③各々の立場の理解,その上で専門的見地から具体的な提案をしていくことも肝要です.これらの①〜③に係る能力に共通していることは「科学」的思考能力が求められるということではないでしょうか.医療の世界を意識しながら科学的思考能力を鍛えていくことが医療薬科学フィールドであると考えます.それは現場の経験値のみで養われるものではなく,体系的な教養基盤が必須です.この場合の教養基盤とは基礎研究能力を育成する場です.「基礎」というのは開発の相を示す意味ではなく,科学の言語としての基礎を意図しています.言語を知らずに,いきなり応用研究フィールドである臨床現場での活躍は期待できません.薬剤師は,科学的な教養課程に重きを置いて臨床現場に入る職種であり,また他職種からはそのような客観的な期待が寄せられていることを,薬学部の人間はもっと意識する必要があるでしょう.またそのような視点によって次の創薬に繋がる重大な手がかりを掴み,臨床開発の種を蒔くこともあるはずです.

 さらに,医療現場は複数の課題が同時並行かつ多面的に生じているため,他の分野の言語を積極的に理解し,迅速に全体像をとらえることが大切です.そのために学際的研究の実施,あるいはそこでの議論を積極的に酌み交わすことが重要であるといえるでしょう.

基礎研究者と臨床薬剤師の交流,次世代の育成,そして自らの発展を目指す場

 本シンポジウムではまさに,薬理・病態・薬物動態・実務・疫学研究など広域の課題に,各専門領域の視点が何層にも重なってディスカッションされることから,学際的に利く目を鍛えられます.本シンポジウムの参加者は大学教員,学生が多いですが,薬剤師職の方,企業研究者の方もおられます.上記に述べたとおり,「医療にどのように還元できるか」に重きを置いて研究を展開する場です.逆に,この共通認識さえ置けば予想以上に多様な研究分野の人たちと,また職種の壁を越えて,熱心に議論できることに気付かれるでしょう.まさにそれこそが本シンポジウムの狙いです.将来どこに身を置くかを迷っている学生の皆さんの刺激・成長に繋がることは疑いの余地がありませんが,参加する全ての研究者にとって自らを高める機会になるでしょう.ご興味を持たれた方は,ぜひ千葉の地へご参集下さい.

佐藤氏

千葉大学大学院薬学研究院
臨床薬理学研究室
佐藤洋美