Newsletter Volume 30, Number 2, 2015

DMPK 30(3)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

小児てんかん患者における抗てんかん薬多剤併用時のlamotrigineの薬物動態

Yamamoto, Y., et al., pp.214-220

 てんかん患者の約3割を占める薬剤抵抗性の難治てんかんは抗てんかん薬の多剤併用が必要となる場合が多く,副作用や相互作用の発生頻度が増加する.本研究は小児難治てんかん患者709名を対象としlamotrigine(LTG)の薬物動態解析を目的とした.LTG血漿中濃度はUGT阻害剤であるvalproic acidにより大きく上昇し,その阻害作用は濃度依存的であった.一方,phenytoin,carbamazepineなどUGT誘導作用を有する抗てんかん薬の併用によりLTG血漿中濃度は大きく低下したが,その作用はphenytoinが最も強力であった.本研究で構築したLTG血漿中濃度の推定式はLTG新規導入時のみならず,UGT阻害剤や誘導剤を追加・中止した場合の動態予測にも有用である.本研究成果が難治てんかんの薬物治療において,多剤併用時の薬物動態の変動や副作用発症の予測に貢献できれば幸いである.

 

[Regular Article]

健常成人にサキナビル又はフェキソフェナジンを経口投与後の消化管吸収に及ぼす製剤添加剤クレモフォールELの影響

Tomaru, A., et al., pp.221-226

 クレモフォールELはCYPやトランスポーターを阻害することが知られている製剤添加剤であるが,臨床試験で阻害作用を検討した報告はほとんどない.そこで我々は,CYP3A及びP-gpの基質としてサキナビルを,P-gpの基質としてフェキソフェナジンを用い,健常成人におけるクレモフォールELの阻害作用をopen-label three-phase crossover試験により検討した.経口投与後のフェキソフェナジンのCmax/AUCはクレモフォールEL併用により有意に上昇したことから,クレモフォールELによる消化管でのP-gpの阻害作用が確認された.一方,サキナビルのCmax/AUCはクレモフォールEL 低投与量の併用で有意に減少,高投与量でコントロールと同程度となった.この原因を解明するために平衡透析実験を行った結果,サキナビルはフェキソフェナジンと比較してクレモフォールELが形成するミセルに取り込まれやすく,そのため消化管管腔内でのフリー濃度が減少し,消化管からの吸収が低下したと推察された.製剤添加剤は多くの医薬品に使用されているが,このように医薬品の薬物動態に影響を与える製剤添加剤もあるため,その影響を理解して使用することが重要である.

 

[Regular Article]

関節リウマチにおけるメトトレキサートの薬効と葉酸トランスポーター発現量との関連

Tazoe, Y., et al., pp.227-230

 関節リウマチ(RA)治療のアンカードラッグであるメトトレキサート(MTX)の薬効は個人差が大きく,その原因として,これまでに葉酸代謝系における遺伝子多型等が報告されてきた.MTXは,reduced folate carrier 1 (RFC1)やproton coupled folate transporter (PCFT)などによって細胞内に取り込まれ薬効を発現する.我々は,MTXを使用している日本人RA患者を対象に,MTXの標的細胞である末梢血単核球(PBMC)における葉酸トランスポーターの遺伝子発現量とRAの疾患活動性との関連を調査した.PBMCにおけるRFC1 mRNA量と疾患活動性との間に有意な相関が認めら,RFC1 mRNA量が多いほどMTXの薬効が大きいことが示唆された.さらにエビデンスを蓄積することで,RAにおけるMTXの個別化療法につながるものと考えられる.

 

[Regular Article]

炎症時に腸管に集積するマクロファージでの有機カチオン膜輸送体OCTN1の発現と抗酸化物質エルゴチオネインの取り込み

Shimizu, T., et al., pp.231-239

 炎症性腸疾患の一つであるクローン病の患者血液中では,食物由来の抗酸化物質エルゴチオネイン(ERGO)の濃度が健常人よりも著しく低い.本研究ではデキストラン硫酸ナトリウム誘発性腸炎モデルマウスを作製し,腸炎の際にERGO体内動態変動が生じるメカニズムを調べた.その結果,ERGOを良好な基質として認識するOCTN1が,腸管炎症時に粘膜固有層に浸潤する免疫細胞に発現し,ERGOを細胞内に取り込むことが明らかとなった.同じモデルマウスでは正常マウスに比べ,血中ERGO濃度は低い一方,ERGOの分布,消失臓器である肝臓や腎臓中ERGO濃度は同程度であったことから,腸管の免疫細胞への取り込みがERGOの循環血中濃度低下の一因であることが示唆された.今後は,クローン病患者で同様のメカニズムが生じるかを調べ,疾患特異的なバイオマーカーとしての妥当性を示す必要がある.本研究は腸管粘膜固有層の免疫細胞による初回通過効果を提唱する点で,薬物動態分野において挑戦的な研究になったと考えている.

 

[Regular Article]

20種類のCYP1A2遺伝子多型バリアントにおける酵素活性

Ito, M., et al., pp.247-252

 CYP1A2の遺伝子多型はテオフィリン等の基質薬物の体内動態や薬物応答性の個人差に影響することが示唆されている.しかしながら,酵素活性変化の程度が明らかになっていないバリアントが多い.そこで本研究では,これまでに同定されている20種類のヒトCYP1A2遺伝子多型バリアント酵素におけるフェナセチンO-脱エチル化活性およびエトキシレゾルフィンO-脱エチル化活性の変化を酵素反応速度論的に解析し,機能変化が生じる遺伝子多型を明らかにした.活性低下が認められたバリアントには,基質認識部位やヘム結合領域にアミノ酸置換を伴うバリアントが含まれ,その構造変化が活性変化に大きく影響していると考えられた.また,3次元構造シミュレーションにより,いくつかのバリアントにおいて,アミノ酸残基間の水素結合消失による立体構造変化が酵素活性変化に大きく影響する可能性が見出された.本研究の結果は,患者のCYP1A2の遺伝子型に適した個別化薬物療法の展開に貢献することが期待される.

 

[Notes]

イベルメクチンの体内動態に及ぼす高脂肪食摂取の影響

Miyajima, A., et al., pp.253-256

 Ivermectin (IVM)は疥癬治療のための唯一の内服薬である.これまでに,ヒトにおいて高脂肪食摂取後に服用することでそのAUCが2.6倍に上昇することが報告されている.このメカニズムとして,高脂肪食摂取によって消化管内でIVMの溶解が促進され,吸収量が増加する可能性が考えられているが,その詳細は検証されていない.そこで本研究はこの高脂肪食摂取による血漿中濃度上昇メカニズムを明らかにすることを目的として,ウサギを用いた動物実験を行った.その結果,高脂肪食前投与によってIVM経口投与後のAUCが上昇した.一方で,同程度のAUC上昇が静脈内投与後にも認められ,さらにこの時の血漿中濃度上昇率は血漿中総コレステロール濃度の上昇率と正に相関した.これらの結果は,血漿中のIVM濃度上昇が溶解促進による吸収量増加ではなく,そこに存在するリポタンパク質濃度上昇に影響された可能性を示している.今後はこのリポタンパク質を介したIVMの体内動態メカニズムについてその詳細を明らかにしたい.