Newsletter Volume 30, Number 2, 2015

DMPK 30(4)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

血中フレカイニドS/R比はCYP2D6遺伝子型およびCYP2D6活性の変化を反映する

Doki, K., et al., pp. 257-262.

 抗不整脈薬のフレカイニドは主としてCYP2D6によって代謝されるため,CYP2D6遺伝子多型がその体内動態の個人差と関連することが知られている.しかし,CYP2D6にはその酵素活性に影響する多くの変異遺伝子が報告されているため,臨床現場においてCYP2D6遺伝子型を解析してフレカイニドの治療薬物モニタリング(TDM)に応用することは困難である.そこで,我々は,ラセミ混合物であるフレカイニドの(S)-体と(R)-体の血中濃度比(血中S/R比)がCYP2D6活性の低い被験者で低下することに着目した.フレカイニドのTDMにおいて調査したところ,血中S/R比はCYP2D6遺伝子型を反映した値を示していた.さらに,血中S/R比は,CYP2D6阻害薬であるベプリジルの併用によって低値を示し,CYP2D6活性の変動も反映することが明らかになった.フレカイニドのTDMでは,薬効・副作用の指標である血中フレカイニド濃度に加えて血中S/R比を調べることで,CYP2D6活性に関する情報を同時に得られることが期待される.

 

[Regular Article]

CYP2A6遺伝子多型は日本人喫煙者において肺扁平上皮がんの発症低下に関連する

Hosono, H., et al., pp. 263-268.

 CYP2A6はタバコに含まれる発がん前駆物質の代謝活性化を触媒することが報告されている.これまでにCYP2A6の遺伝子欠損が肺がんの発症リスクの低下に関連すると示唆されてきたが,一方で関連性がないという報告も多い.そこで本研究では,日本人喫煙者においてCYP2A6の全エキソンシークエンスによるプロタイプ分類法及びActivity Score(AS)によるフェノタイプ予測を行い,肺扁平上皮がん発症リスクとCYP2A6遺伝子多型の関連性をケース・コントロール解析した.その結果,CYP2A6酵素活性の低下する遺伝子多型において肺扁平上皮がんの発症リスクが有意に低下することを明らかにした.CYP2A6のハプロタイプを正確に分類し,かつASによりフェノタイプを予測定義することが,CYP2A6遺伝子多型のケース・コントロール解析においてデータの精度を向上させると考えられた.本研究は,がん発生機構の解明や遺伝子多型情報を利用したがん発症予防を推進する一助となることが期待される.

 

[Regular Article]

ニコチンによる脳選択的なUDP-グルクロン酸転移酵素の誘導

Sakamoto, M., et al., pp. 269-275.

 一般的に血中薬物濃度と薬理効果は相関するが,一部の向精神薬や麻酔薬は血中薬物濃度ではなく脳組織中薬物濃度と薬理効果に相関が認められることが報告されている.脳には多様なシトクロムP450分子種が発現し,脳組織中薬物濃度の調節を行っていることが近年報告されている.その一方で,主要な第二相薬物代謝酵素であるUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)については,脳内に発現しているか否か,また薬物代謝能を示すか否かが不明であった.本研究ではヒト化UGT1マウスを用い,脳UGTの発現および機能を明らかにした.ヒト化UGT1マウスの脳にはUGT1A1,1A3,1A6が発現していることが明らかとなった.さらに,五日間のニコチン投与(3 mg/kg)は脳特異的にUGT1A3の発現を誘導することが明らかとなった.UGT1A3選択的な基質を用いて脳ミクロソームのグルクロン酸抱合活性を測定したところ,統計学的な有意差は認められなかったものの,ニコチン投与マウスから調製した脳ミクロソームはコントロールと比較し約五倍高い活性を示した.以上の結果より,ニコチン投与を行うヒト化UGT1マウスは,in vivoレベルで脳UGT1A3の重要性を解明する際に有用であると考えられる.

 

[Regular Article]

培養肺胞上皮細胞における葉酸トランスポーターを介したMTXの輸送

Kawami, M., et al., pp. 276-281.

 メトトレキサート(MTX)の副作用である肺障害(間質性肺炎,肺線維症)は,重篤な転帰を辿ることが多く,臨床上大きな問題となっている.一方,MTXの肺への移行とMTXによる肺障害は密接に関連していると考えられるが,MTXの肺への輸送に関する情報は乏しい.そこで本研究では,ヒト培養肺胞上皮細胞であるA549を用い,MTXの輸送特性について解析を行った.その結果,A549細胞に葉酸トランスポーターであるreduced folate carrier(RFC)とproton-coupled folate transporter(PCFT)のmRNA発現が認められた.さらに,葉酸やこれらトランスポーターの阻害剤を用いた検討から,MTXはpH 7.4ではRFC,pH 5.5ではPCFTによってA549細胞へ取り込まれることが明らかとなった.今後は,生理的条件下で機能していると考えられるRFCに焦点を当て,さらに詳細に解析を進めて行きたいと考えている.

 

[Regular Article]

Gemfibrozil-pioglitazoneの相互作用メカニズムの解明: GemfibrozilアシルグルクロニドによるCYP2C8のMechanism-based inhibition

Takagi, M., et al., pp. 288-294.

 Pioglitazoneは主にシトクロムP450(CYP)2C8により水酸化を受け代謝される.現在までにGemfibrozilと併用することでpioglitazoneの血中濃度-時間曲線下面積(AUC)は約3倍上昇することが報告されているが,この薬物相互作用がどのようなメカニズムで発生したかは不明であった.Gemfibrozilの代謝物の一つであるアシルグルクロニドはCYP2C8を強く阻害することが知られている.本研究において,ヒト肝ミクロソームにおけるpioglitazoneの代謝活性は,UDP-グルクロン酸およびNADPHを添加した肝ミクロソームとGemfibrozilのインキュベーション時間依存的に減少したことから,Gemfibrozil-アシルグルクロニドによるCYP2C8の阻害はmechanism-based inhibition(MBI)であると考えられた.本研究ではさらに,臨床でのMBI強度の指標としてkobs, in vivo値(臨床血中濃度における酵素不活性化速度定数)を算出した.GemfibrozilはMBIを示すエリスロマイシンやクラリスロマイシンと似たkobs, in vivo値を示したことから,Gemfibrozilはそれら阻害剤と同程度のCYP阻害能を有すると考えられた.一般に薬物のグルクロン酸抱合体の反応性は低いが,カルボキシル基にグルクロン酸が抱合したアシルグルクロニドはCYPを強く阻害する可能性がある.今後はアシルグルクロニドに起因する薬物間相互作用の予測に取り組む予定である.

 

[Note]

CYP2D6変異型分子種におけるテルビナフィン阻害作用の変動

Akiyoshi, T., et al., pp. 321-324.

 Cytochrome P450 (CYP) 2D6 は,遺伝的多型性に富んでいる.特に日本人においては,本研究で用いた酵素活性低下型分子種であるCYP2D6*10 careerのアレル頻度は約 40%程度と野生型と同等程度に存在する.薬物相互作用を考える上では,その AUC の変動などを平均値のみで議論するばかりでなく,相互作用の程度における個人差についても考える必要がある.今回明らかとなったように,テルビナフィン(TER)の CYP2D6 野生型と CYP2D6.10 分子種における Ki 値の差はなんと約 35 倍に達した.このことは,TER による薬物相互作用を考える上では,特に患者の遺伝子型を考慮する必要があることを強く示す結果となった.もともと TER による相互作用は,臨床上非常に長期にわたり,TER の併用終了3週間にもおよぶことが報告されており,この阻害作用は臨床上重要な懸案事項であった.それに加えて本研究結果での Ki 値の違いは,臨床上での TER 適正使用,特に薬物相互作用を考える上で重要な情報を提供しうると考える.