Newsletter Volume 35, Number 2, 2020

受賞者からのコメント

顔写真:大渕雅人

ベストポスター賞を受賞して

アステラス製薬株式会社 薬物動態研究所
大渕雅人

 この度,日本薬物動態学会第34回年会にてベストポスター賞を賜り,誠にありがとうございます.ご審査頂きました選考委員の先生方に厚く御礼申し上げます.

 私は「ヒト近位尿細管マイクロ流体モデルの創薬ADME/Tox研究に向けた機能評価」という題目でポスター発表させていただきました.医薬品研究の開発難易度が増す中,臨床予見性の向上が創薬の課題であり,生体模倣システムはその打ち手の一つとして期待されます.生体模倣システムを創薬活用する上で,目的とする性能を有しているかの機能評価はとても重要であります.今回我々は構築したヒト近位尿細管モデルについて,免疫染色により近位尿細管マーカータンパクの発現を確認し,機能評価として「バリア機能」「腎トランスポーター輸送能」「腎代謝能」「薬剤誘発性腎障害」を低・高分子を用いて検討しました.その結果,流れ刺激(shear stress)によりバリア機能を有する管腔構造が形成されること,糖およびアルブミンの取り込みやP-gpによる異物排泄,腎代謝活性など生体のホメオスタシス維持に重要な複数の近位尿細管機能を有すること,化合物による近位尿細管障害作用を検出可能であることが示唆されました.これらの機能評価に加えて,モデル構築の成功率やスループット,操作性(日常の形態観察や培地サンプルの回収は可能か)なども創薬研究に用いる上では重要な要素であります.今回の機能評価を通じて得られた知見を活かしながら,生体模倣システムを創薬研究に活用していきたいと考えております.

 変化し続ける創薬ニーズを踏まえながら,生体模倣システムを開発し創薬研究に活用していくためには産官学の枠組みを超えた協同が必要と考えています.今回のポスター発表では,本学会のテーマ「科学技術の交差点~生体模倣による薬物反応システムの解明と再生医療技術の応用~」のとおり,アカデミアの先生方,製薬および製薬以外の企業研究者など大変多くの皆様と意見交換をさせていただきました.今後の研究を遂行する上で有益なアドバイスを頂戴することができました.誠にありがとうございます.今後も生体模倣システムに関する研究が日本薬物動態学会において活発に議論され,その研究成果が患者さんの価値に貢献することを切に願っております.

 末筆ではありますが,本研究を遂行するにあたりご指導・ご鞭撻をいただいたアステラス製薬株式会社薬物動態研究所の手塚和宏氏に心より御礼申し上げます.本研究を進めるにあたり,多くのサポートとご助言をいただいた田端健司氏,長坂泰久氏,同社の皆さまに深く御礼申し上げます.