Newsletter Volume 35, Number 2, 2020

受賞者からのコメント

写真:藤田大地

ベストポスター賞を受賞して

金沢大学医薬保健研究域薬学系薬物動態学研究室
藤田大地

 この度,日本薬物動態学会第34回年会において,大変名誉あるベストポスター賞を頂き,誠にありがとうございます.年会長の田端健司先生をはじめ,ご審査いただきました選考委員の先生方,日本薬物動態学会関係各位の皆様に深く感謝申し上げます.

 これまで,医薬品と食品の相互作用は数多く報告されており,特に消化管の薬物吸収過程においては,グレープフルーツジュースのCYP3A阻害を初めとして薬物代謝酵素や薬物輸送体が関与する事例が示されています.我々はこれまで,薬物吸収に影響を及ぼす食品の作用メカニズム解明を目的として,小腸に発現する薬物輸送体に対する果汁の影響を評価してきました.薬物輸送体に対する食品の作用機序については,フラボノイド等の低分子成分による競合阻害で説明される報告が多数存在しますが,食品や飲料に含まれる高分子成分の影響については未解明であるのが現状です.近年になり,果実中に含まれるナノ粒子の生体に対する作用が報告され始めました.ナノ粒子は脂質二重膜で構成され,タンパク質やmicroRNA等の高分子成分を内包しているため,消化管管腔中における高分子成分の安定性の向上に寄与すると考えられます.また,ナノ粒子が内容物を輸送するキャリアとなることも示唆されており,高分子成分の低膜透過性を克服しているのではないかと考えました.

 そこで,我々は食品中のナノ粒子に着目し,ナノ粒子を介した高分子成分の消化管への作用が,食品と医薬品の相互作用の一因になっていると仮説を立てました.これまで,消化管に発現する薬物動態関連因子として輸送体に注目し,果物由来ナノ粒子画分の作用を評価してきました.昨年の年会では,リンゴ及びグレープフルーツから回収したナノ粒子が,消化管輸送体の発現量低下に起因した輸送活性低下を示し,その作用機序として低分子成分による競合阻害とは異なるメカニズムを示唆しました.今回の発表では,原因成分の同定を目指し検討を進めた結果,リンゴ中ナノ粒子に含まれるmicroRNAが,薬物輸送体OATP2B1の遺伝子発現制御の原因成分であることを見出しました.これは,既知の低分子成分による競合阻害とは異なり,果実由来microRNAがヒト遺伝子と相互作用を示す結果であり,食品がもたらす多様な作用の一端を解明できたと考えています.

 最後になりましたが,本研究の遂行に際してご指導いただいた当研究室の玉井郁巳教授,小森久和助教,ならびに学生の皆様にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.