Newsletter Volume 35, Number 2, 2020

DMPK 35(1)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Review Article]

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」に関する厚生労働省通知

Ishiguro, A.,et al.

 2018年7月に厚生労働省から「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」が公表された.薬物相互作用の検討方法に関する規制文書の17年ぶりの改定であり,この間の薬物代謝酵素やトランスポーターに関する研究の進展,臨床薬物相互作用試験による検討の普及,相互作用の検討へのモデル解析の利用可能性の高まりなどを考慮し新たなガイドラインは作成された.本ガイドラインでは,得られた薬物相互作用に関する試験データの解釈及び情報提供に関する指針を含む,医薬品開発から製造販売後までに検討すべき包括的な指針が示されている.本ガイドラインが普及することにより,薬物相互作用に関する情報の医療現場における適正な活用に資することが期待される.改定作業の過程で実施したパブリックコメント募集時にはガイドラインの国際調和を求める意見もあり,医薬品規制調和国際会議(ICH)ではガイドライン作成のための作業部会(M12)が活動を開始した.ICH M12ガイドラインの早期の作成,公表が待望される.

[Review Article]

Identification and quantitation of enzyme and transporter contributions to hepatic clearance for the assessment of potential drug-drug interactions

Kimoto, E.,et al.

Have you been asked one of following questions before?

  • “Which enzymes metabolize compounds?”
  • “What is the contribution of each enzyme to systemic clearance?”
  • “Are they also substrates of transporters? Which transporters?”
  • “Are these transporters also involved in systemic clearance?”
  • “Do you expect drug-drug interactions (DDIs) on enzymes and/or transporters?”
  • “What magnitude of DDIs?”
  • “How can we extrapolate nonclinical data to clinic?”
  • etc…

As recommended by the regulatory guidance, the evaluation of enzymes- and/or transporters-mediated DDIs is getting important in drug discovery setting. We are working on how to increase the confidence in the DDI prediction.

In this review, we have summarized our strategy of predicting major clearance mechanisms based on the recently proposed classification, Extended Clearance Classification System (ECCS). This would support the rational strategy of in vitro studies to characterize contributions of enzymes and transporters to hepatic clearance for DDI assessment. In addition, we have also described some case examples of complex DDIs involving transporter-enzyme interplay.

We hope this review will provide insights to address the questions above.

[Review Article]

シトクロムP450阻害および誘導の計算による予測

Kato, H.

 薬物相互作用に関わるシトクロムP450(CYP)の中で,主要なアイソフォーム(1A2, 2C9, 2D6および3A4)に対する阻害,ならびにCYP1A2, 2B6および3A4誘導に関与する3つの核内受容体[芳香族炭化水素受容体(AhR),構成的アンドロスタン受容体(CAR)およびプレグナンX受容体(PXR)]リガンドのin silico予測について,近年の開発状況をレビューした.予測手法はリガンドベースおよび蛋白構造ベースに大別され,前者はQSAR,機械学習,後者はドッキング,分子動力学シミュレーション等様々な手法が活用された.最近,これら2つの手法の組み合わせにより予測精度の改善が報告されている.一方,CYP阻害ではmechanisms-based inhibition/time-dependent inhibition,CYP誘導では間接的な核内受容体活性化のようなより複雑な機序に対するin silico予測報告事例は少なく,今後の更なる予測技術の進化が必要と考えられる.

[Review Article]

新規薬物の代謝に関与するnon-P450酵素同定:薬物相互作用やプロドラック体内動態における意義

Nishiya, Y., et al.

 本稿は,第一三共におけるnon-P450酵素同定の取り組みを1) 薬物相互作用:バルプロ酸とカルバペネム系抗生物質の相互作用におけるacylpeptide hydrolaseの関与,チバンチニブのアルコール脱水素酵素,2) プロドラック活性化:オルメサルタンのcarboxymethylenebutenolidaseおよびparaoxogenase 1,プラスグレルのRaf kinase inhibitor protein,3) 新規酵素同定手法の観点からまとめた.Non-P450酵素同定手法はP450とは異なり,酵素精製や発現系作成,特異的阻害剤や抗体による寄与率見積もり等ケースバイケースであり,参考になれば幸いである.大規模な臨床試験や健常人での臨床薬理試験が困難な抗がん剤や希少疾患治療薬の開発において,non-P450酵素の体内動態制御因子としての重要性をin vitro試験でより正確に見積もることは,一日も早い新薬の上市を待つ患者さんに役立つと考える.

[Review Article]

OATP1Bを介した取り込みが関与する肝クリアランスのIVIVE法とDDI評価法の進展

Nozaki, Y.,et al.

 従来,ヒト肝クリアランスの定量的予測は,特にorganic anion transporting polypeptide (OATP) 1Bなどのトランスポーターを介する肝取り込みが関与する場合,非常に難しいと考えられてきました.しかし,Extended clearance conceptの普及により,肝クリアランス予測において律速段階を考慮することの重要性が広く認知され,これが今日のin vitroin vivo extrapolation (IVIVE)法の根幹をなしています.高活性ヒト肝細胞へのアクセス向上と相まり,化合物のPK特性を十分に理解し,適切なin vitro系を選択することで,ヒト肝クリアランス予測の確度を高めることが可能となってきました.また,OATP1Bに対するin vitro阻害評価についても,基質依存性やプレインキュベーション効果などの現象が新たに見つかり,規制当局のDDIガイダンスで言及されるに至っています.この様に,ここ10年のOATP1B研究の進展は目覚ましく,製薬企業におけるOATP1B評価も変わりつつあります.そこでこの度,企業研究者の視点からレビューとしてまとめることと致しました.本レビューが,読者の皆さんの日々の研究や創薬研究の一助となることを心から願っています.

[Review Article]

代謝における薬物相互作用の評価 ~三極のガイダンス/ガイドライン間の違いと国際調和~

Iwatsubo, T.

 医薬品の開発において薬物動態学的薬物相互作用(DDI)の発現の可能性とその程度を適切に評価することが極めて重要なのは今更言うまでもない.日米欧各々においてDDI評価に関するガイダンス/ガイドラインが発出・施行されているが,DDI予測に用いるモデル式やカットオフ基準等について必ずしも一致しておらず,近年のグローバル開発の進展や申請資料の共通化を考えると,製薬企業にとってこうした差異は悩みの種であり,日米欧間の主要な相違点については更なる調和が望まれる.折しも2018年6月のICH会議で「薬物相互作用」がトピックとして採択され(ICH M12),2019年より正式に国際調和に向けた活動が開始されている.この機会に,特に薬物代謝におけるDDIの三極間の共通点と差異について自分なりに整理してみた.読者の皆さまが今後のICHや三極のDDIガイダンス/ガイドラインを考える上での一助になれば幸いである.

[Review Article]

トランスポーターが関わる薬物相互作用のより良い予測を指向したin vivoフェノタイピング手法の最近の進展

Maeda, K.

 薬物相互作用のリスク評価については,これまで様々な実験系が検討されており,近年発出された日米欧3極の「薬物相互作用ガイダンス/ガイドライン」に集約された.しかしながら,in vitro実験のみに基づく相互作用リスクの定量的評価には未だ課題が残されており,必ずしも合理的な説明がつかないin vitroin vivo間での結果の乖離によるものもある.従って,より信頼性の高い予測を実現するには,ヒトin vivoで相互作用リスクを評価するフェノタイピングが求められる.但し,臨床相互作用試験の実施は様々なコストを伴う.本総説では,ヒトin vivoで直接,トランスポーターを介した相互作用リスクに関する情報をできる限り効率よく精密に取得するための手法として,①マイクロドーズのプローブ薬物のカクテル投与による複数の標的に対するリスクの同時評価,②陽電子断層撮像法(PET)による薬物の組織内挙動の可視化,③内在性化合物の変動を利用した相互作用リスクの非侵襲的評価の3つを取り上げ,最新の研究状況と今後の課題についてまとめた.読者の皆様の理解の一助になることを願っている.