Newsletter Volume 35, Number 2, 2020

受賞者からのコメント

顔写真:河西 巧

優秀口頭発表賞を受賞して

金沢大学 医薬保健研究域薬学系 分子薬物治療学研究室
河西 巧

 この度は,第34回日本薬物動態学会年会において,優秀口頭発表賞をいただき,誠に有難うございます.年会長の田端健司先生をはじめ,ご審査いただきました選考委員の先生方,並びに日本薬物動態学会関係各位の皆様に厚く御礼申し上げます.

 私は本年会において,「Increase in renal distribution of imatinib and its possible relevance to basolateral membrane transporters during cholestasis in mice」という演題で発表させていただきました.肝臓は薬物代謝や排泄といった薬物消失における重要な役割を担っています.肝障害が起きた場合,薬物の肝消失能が低下することが知られています.一方で,肝障害が他臓器における薬物動態に及ぼす影響は,まだ限られた情報しか明らかになっていません.そこで,私は肝障害時における薬物の腎臓での動態変化について調べる目的で,肝障害モデルとして胆管結紮 (BDL) マウスを作製し,比較的長期間での影響を探るため結紮後2週間飼育したマウスを実験に使用しました.モデル薬物としてイマチニブを静脈内投与すると,腎臓対血漿濃度比がBDLによって16倍上昇することを見出しました.イマチニブは腎毒性を示すため,この結果は,肝障害時に腎毒性発症の可能性が高くなることを示唆しております.そこでその原因を探るため,BDL時の腎臓でのイマチニブの動態を調べました.腎スライスを用いて,腎尿細管上皮細胞の側底膜側におけるイマチニブの輸送特性を検討した結果,腎臓への初期取り込みはBDLマウスでやや高かった一方,腎スライスからの排出がBDLマウスで低下していました.このため,血管側で腎からの排出に関わる膜輸送体の変化が関与している可能性が示されました.そこで,腎臓膜画分を調製しプロテオミクス解析により膜輸送体発現量を網羅的に定量した結果,multidrug resistance-associated protein 6の発現量が,BDLマウスにおいて顕著に減少しており,western blottingでも発現量の減少が確認されました.プロテオミクス解析ではこれ以外にもいくつかの排出膜輸送体に変化が見られました.このため,BDLマウスにおけるイマチニブの腎曝露の上昇は排出膜輸送体の発現量の変化が関与する可能性が示唆されました.今後は,見出された膜輸送体によるイマチニブの輸送活性,薬物集積に伴う薬剤性腎障害への関与,発現変化のメカニズム,他の薬物への影響等を調べることが課題と考えています.
 最後に,本研究遂行に当たって,ご指導を賜りました当研究室の加藤将夫教授,荒川 大助教,をはじめ,研究室の皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます.