Newsletter Volume 35, Number 1, 2020

展望

顔写真:齋藤嘉朗

日本薬物動態学会第16期会長挨拶

日本薬物動態学会第16期会長
国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部
齋藤嘉朗

 山崎浩史会長の後任として,つくば年会中の2019年12月11日より16期会長を拝命致しました.歴代の会長が心血を注いで築き上げてきた本学会を担うこととなり,その重責をひしと感じております.副会長(次期会長)に選任されました,京都大学・山下富義先生を始めとする理事会メンバーと共に,2年弱,頑張ってまいりますので,会員の皆様におかれましては,学会の活動への積極的なご参加を何卒,宜しくお願い申し上げます.以下,ここに新会長としてご挨拶を申し上げます.

 歴代の会長,理事,代議員および会員の皆様のご活躍の下,本学会は,特に薬物代謝酵素やトランスポーター研究で,世界の薬物動態領域を常にリードしてきました.一方で,近年,医薬品開発のモダリティは,抗体,改変抗体,核酸,非天然型ペプチド,細胞,遺伝子へと拡大いたしました.低分子の化学薬品同様,核酸医薬品や遺伝子治療製品でも,現在,トキシコキネティクス試験を含む動物実験が求められておりますが,種特異性が高いこれらモダリティに関して適切に評価できるのか,疑問の声もあります.さらに,動物実験に対する3Rs(Replacement(代替法への置換),Reduction(動物数の削減),Refinement(苦痛軽減))の進展により,その代替としての実験法の構築が求められておりますが,ヒトiPS分化細胞の利用やOrganoid技術の進展により,その代替が可能となってきております.ヒトの評価系として,これらの新規評価技術は,新規モダリティの評価にも使用できる可能性があり,その解析結果を,ヒトの動態予測へ応用することが期待されています.今後は,これらの新規モダリティや新規予測・評価技術への貢献が,本学会として求められていると感じています.

 また第15期からの活動となりますが,第34回つくば年会では,韓国に加え,中国,タイの関連団体からのご参加を賜り,アジア共同シンポジウムを開催いたしました.アジア諸国における薬物動態研究の急速な進展を改めて認識し,今後も連携を深めるべきと考えております.さらに次回2020年の年会は,山崎浩史・年会長の下,International Society for the Study of Xenobiotics (ISSX) 北米大会との共催として,ハワイ島にて開催いたします.学会として,アカデミア・企業を問わず,若手研究者(学生,博士取得後5年以内,または40歳未満)への参加補助を積極的に行って参りますので,一人でも多くのご参加を賜りますと幸甚です.申すまでもなく,学会は運営する理事のものでなく,薬物動態学会という旗の下に集まった,皆様お一人お一人のものであり,薬物動態研究者が自らの研究成果を発表し,そして研究者同士が切磋琢磨して,お互いのレベルを高めていく場であります.是非,年会への積極的なご参加をどうぞ宜しくお願い申し上げます.

 また,一般社団法人としては,薬物動態の分野から,日本の創薬・医療に貢献する使命もございます.さらに上述のように,動物実験代替法の流れは,食品・食品添加物や化粧品の企業等にも及んでおり,今後は「Study of Xenobiotics」の学会として医薬品に限らず,化粧品成分や化学物質を主対象とする研究を積極的に取り上げると共に,薬学部出身でない先生を対象とした薬物動態学の啓蒙など,新たな活動が必要かもしれません.また病院や調剤薬局の薬剤師の方への,薬物動態学の再教育機会の提供が,学会として必要となるかもしれません.変わらない活動と時代の要請としての活動が必要と考えています.

 簡単に個人的な話をさせていただきます.小職は大学・大学院時代は,生化学・生理学の研究を行っており,本格的に薬物動態学の研究を行ったのは,2000年から開始されたミレニアムプロジェクトで,薬物代謝酵素やトランスポーターの遺伝子多型解析,及び多型の機能解析を担当してからとなります.薬物動態学の師匠である,現・岩手医科大学薬学部教授の小澤正吾先生から手ほどきをいただきました.あの時,職場である国立医薬品食品衛生研究所にて,この仕事を受けていなかったら,と思うと感慨深いものがあります.また薬物動態学会で初めて理事に就任させていただきましたのは,第13期会長の千葉 寛先生からご指名いただいたことによるものであり,いきなり総務委員長として法人化を担当することとなりました.研究活動の縁,そして人との縁を深く感じると共に,前会長の山崎浩史先生の会長就任時のお言葉にございますように「日常の積み重ねは,何一つ無駄なことはない」について心から同感いたします.

 今期の理事会メンバーも,産学官,そして学では国公私立がバランスよくとれた構成となっております.本会の活動がさらに発展するよう,知恵を絞って参りますが,少人数ではやはり限界がございます.冒頭にもお願い申し上げましたが,何卒,代議員を始めとする会員の皆様の,学会活動への積極的なご参加,そしてご意見を賜れますと幸いです.2年弱,どうぞ宜しくお願い申し上げます.