Newsletter Volume 35, Number 2, 2020

受賞者からのコメント

顔写真:中田智久

DMPK賞 1st Place賞を受賞して

田辺三菱製薬株式会社 創薬基盤研究所
中田智久

 この度,我々の発表論文 “Quantitative analysis of elevation of serum creatinine via renal transporter inhibition by trimethoprim in healthy subjects using physiologically-based pharmacokinetic model” が2018年度DMPK賞 (1st Place賞) を賜り,大変光栄に思います.この場をお借りしましてご選考下さいました先生方に深く感謝いたします.

 本論文では,モデリング&シミュレーションという手法で腎機能マーカーの一つであるクレアチニンの腎排泄過程を詳細に説明しました.これまでは血清クレアチニン値上昇が,薬剤誘発性腎障害かあるいは薬物相互作用によるクレアチニンの尿細管分泌低下が原因となっているかを明確に区別することができませんでした.そのため,医薬品開発において血清クレアチニン値が上昇してしまうと,投与量を減らしたり,開発を中止したりするなど慎重に判断せざるを得ない場合があり,大きな課題の一つでした.

 上記課題に対して,腎臓トランスポーターを介したクレアチニンの尿細管分泌阻害を考慮したモデル解析によって,血清クレアチニン値上昇およびクレアチニンクリアランス低下が腎臓トランスポーター阻害のみによって定量的に説明可能か検討しました.本研究では,腎機能マーカーに影響することなく,その服用期間中に血清クレアチニン値が比較的明確に上昇する市販薬としてトリメトプリムを用いて,実際の血中濃度および尿中排泄量を再現するトリメトプリムの簡易生理学的薬物速度論モデルを構築しました.さらに,トリメトプリムによるorganic cation transporter 2 (OCT2), OCT3, multidrug and toxin extrusion protein 1 (MATE1) およびMATE2-Kを介したクレアチニンの尿細管分泌阻害を考慮したモデルにより,複数の用法用量における投与期間中の血清クレアチニン値上昇およびクレアチニンクリアランスの低下が再現され,トリメトプリム投与中の血清クレアチニン値上昇は腎臓トランスポーター阻害により定量的に説明可能であることが示されました.

 本研究結果により,新規開発化合物のヒト血中濃度推移と腎臓トランスポーター阻害実験結果に基づき,投与期間中に生じた血清クレアチニン値上昇が腎臓トランスポーター阻害によるものか判別することにより,腎障害の発症有無に関するより正確な判断が可能となり,適切な医薬品開発につながるものと期待しております.

 最後に,本研究を遂行するにあたりご指導およびご助言を賜りました伊藤清美 教授 (武蔵野大学),楠原洋之 教授 (東京大学),工藤敏之 講師 (武蔵野大学),ならびに久米俊行 博士 (田辺三菱製薬) にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.