Newsletter Volume 34, Number 5, 2019

学会 道しるべ

顔写真:河西 巧

12th International ISSX Meetingに参加して

金沢大学大学院医薬保健総合研究科 分子薬物治療学研究室
河西 巧

 この度は,2019年度若手研究者海外支援事業にご採択いただき,誠にありがとうございます.私は12th International ISSX Meetingに参加し,「Increase in renal exposure to imatinib during cholestasis in mice」という題目でポスター発表をさせていただきました.今回の学会で多くの知見を得ることができ,見聞を広め,とても貴重な体験をさせていただきました.今回学んだことを糧に,自身の更なる成長につなげ,薬物動態研究のさらなる発展に少しでも貢献したいと存じます.

 今学会で,私は肝障害時における腎臓内での薬物動態変化について発表させていただきました.モデル薬物として,ヒト臨床において副作用として腎毒性が報告されているイマチニブを用いました.肝障害モデルとして施した胆管結紮マウスにおける静脈内投与時のイマチニブの循環血中濃度は対照群と比べて変化しない一方,投与4時間後の腎臓血漿濃度比は対照群に比べ16倍に増加しました.その理由を探るべく腎スライスで取り込みと排出を直接評価した結果,胆汁うっ滞マウスでイマチニブ腎取り込み活性の増加と排出活性の低下が明らかとなりました.現在この動態変化の主要因となる膜輸送体の同定を目的としてデータを収集中です.発表の場で,活発な議論を交わし,様々なご意見をいただき,更なる研究の邁進への糧となりました.具体的には,胆汁うっ滞マウスにイマチニブを投与した際に腎毒性が現れるか,肝障害モデルの種類によって腎臓内薬物動態が異なるのか,ヒトにおいても起きうるのか,等のご質問をいただきました.

 また,他の研究者の発表演題を聞き,薬物動態における最先端の研究,より広い分野の研究を知ることができました.発表演題はどの演題も素晴らしいものでしたが,その中から2つの演題について紹介させていただきます.

  1. ‘‘Tissues on Chips’’ – A Novel Tool for Toxicity and Efficacy Testing on Human Tissue (Parallel Symposium 2, Bo Yeon Lee, National Institutes of Health)
    Lee先生のご講演では,臓器をin vitro 3Dで再現したTissues on Chipsでの毒性や薬効予測について発表されていました.臨床試験で候補薬が毒性や薬効の問題でdrop outすることが多く,候補薬の選定をTissues on Chipsで行うという新たな試験方法を提案されています.私もmicrophysiological systems(MPS)を用いたin vitroin vivo extrapolation(IVIVE)での薬物動態予測に関して研究を行っており,今後に生かしていこうと考えています.
  2. Transporters in Polycystic Kidney Disease (Parallel Symposium 5, Kim Brouwer, UNC Eshelman School of Pharmacy)
    Brouwer先生は多発性嚢胞腎における腎臓膜輸送体の変化,腎臓病に伴って起こる肝臓膜輸送体の変化について発表されていました.私も肝障害時の他臓器での薬物動態変化について研究を行っており,とても興味深く,新たな知見となりました.

<薬物動態学会会員に伝えたいこと>

 様々な先生の発表を聞きましたが,どの先生にも研究に対する情熱が感じられました.また,普段なかなか会うことができない人々と拙い英語ではありましたが,自分の伝えたいことを言葉にし,意見をかわすことができました.海外の学会へ参加することによって,日本だけにとどまらず,自分の研究成果を世界に発表し海外の研究者と意見を交わすこと,また世界で行われている様々な研究を知ることは今後の研究や自分の将来にも活きてくると思います.学生会員の皆さんにもぜひとも海外の学会に参加し,自分の研究をさらに深めてもらいたいです.

 最後になりましたが,2019年度若手研究者海外支援事業による学会支援を頂いたおかげで,このような貴重な体験ができました.日本薬物動態学会会長の山崎浩史先生をはじめ,選考委員の先生方に厚く御礼申し上げます.

学会風景

① 学会会場
② ポスター発表