Newsletter Volume 34, Number 5, 2019

DMPK 34(5)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

PET(陽電子断層撮像)イメージングによるヒトにおける[11C]telmisartanの肝胆系輸送の定量的解析

Maeda, K., et al.

 Telmisartanは,過去の我々の研究より,肝取り込み過程にOATP1B3の寄与が大きいと推察されるユニークな医薬品である.また,臨床投与量付近で薬物動態の非線形性が確認されていたが,その原因は未解明であった.そこで本研究では,ヒトにおける非線形性の原因が肝取り込み過程にあるか否かを明確にするために,telmisartanの11C標識体を用いて,臨床投与量の非標識telmisartanの上乗せ投与の有無で標識体の肝胆系輸送がどのように定量的に変化するかをPETにより直接観察を行った.その結果,肝取り込みクリアランスは,非標識telmisartanの有無で変動が見られなかったことから,非線形薬物動態の原因は,少なくとも肝取り込み過程の飽和ではないことを明確にできた.本研究は,ヒトin vivoでは通常血中濃度しか得られないため,その変動の原因特定が不可能な肝胆系輸送を定量的に可視化することで,ヒト臓器内動態を詳らかにする強力な方法論を提示するものである.また,ヒトin vivoの素過程のパラメータとin vitro実験結果を突き合わせることで,IVIVEの精度向上にも寄与すると考えられる.

[Regular Article]

PETイメージング手法を用いた新規F-18標識ピタバスタチン誘導体PTV-F1による健常ラットにおける肝胆道系トランスポーター輸送機能のインビボ評価

Kimura, H., et al.

 様々な薬剤の取り込みや排泄を詳細に理解するには,肝胆輸送に関わるトランスポーター機能を評価することが重要である.一方,陽電子断層撮影(PET)は非侵襲的かつ高感度に生体内の機能をインビボ評価できる分子イメージング法である.そこで本研究では,肝取り込みに寄与する有機アニオントランスポーター(OATP)の基質かつ,胆汁排泄に寄与するトランスポーターの基質であるピタバスタチンの誘導体[18F]PTV-F1のトランスポーターを介した肝胆輸送機能評価を,PETを用いて行った.PET撮像実験の結果,速やかな肝臓への取り込み及び腸管への排泄が明瞭に描出され,さらにOATP阻害剤としてリファンピシン投与群と比較した結果,[18F]PTV-F1の肝取り込みが有意に低下した.今後はヒトにおける臨床試験を経て,OATPの薬物間相互作用の解明や医薬品開発に貢献できるようなPETイメージング手法を用いたOATP機能解析法を確立したいと考えている.

[Regular Article]

Relative Factor(RF)法によるヒト肝細胞を用いたCYP2C9誘導リスクの評価

Endo-Tsukude, C., et al.

 酵素誘導のin vitro試験による評価方法は,各国の薬物相互作用ガイドラインにてEC50及びEmaxを用いたカットオフ基準と比較する方法が提唱されている.RF法は,Emax及びEC50を算出せずともリスク評価が可能であり,化合物の毒性又は溶解度等の要因によってこれらのパラメータの算出が困難な場合に威力を発揮する.本研究では,簡便にCYP3A4の誘導リスクを評価することができるRF法を用い,医薬品8化合物のヒト凍結肝細胞におけるin vitro試験結果及び臨床相互作用情報を基に,CYP2C9の誘導リスクを評価した.RF法によりCYP2C9の誘導リスクは評価可能であり,その誘導リスクはCYP3A4より低いと評価された.報告されている臨床相互作用についての網羅的な検討からも,この結果は支持された.RF法は,新有効医薬品開発の非臨床段階で,臨床酵素誘導リスク予測の簡便化及び効率化に貢献するだろう.

[Regular Article]

日本人トリメチルアミン尿症表現型および全ゲノムシークエンスデータベース遺伝子型由来のフラビン含有酸素添加酵素3(FMO3)遺伝子多型

Shimizu, M. et al.

 フラビン含有酸素添加酵素3(FMO3)は食品由来のトリメチルアミンのN-酸化反応を触媒する.本研究では,FMO3酵素機能不全であるトリメチルアミン尿症(別名,魚臭症候群)の表現型からFMO3遺伝子変異を探索し,加えて,東北大学東北メディカル・メガバンク統合データベースの3,500人規模のゲノム情報を用い,FMO3遺伝子変異の検索を行った.見出した新規FMO3遺伝子変異の酵素活性へ及ぼす影響を組換え酵素を用いて調べたところ,それらの影響は様々であった.一方,大規模データベースに登録された遺伝子情報解析では,遺伝子上の塩基欠失および塩基挿入の検出は困難であった.これらのことから,表現型に反映する新たなFMO3ハプロタイプ同定の探索には従来型の表現型解析に加えて大規模遺伝子情報の利用が有効であると推察された.