Newsletter Volume 34, Number 5, 2019

学会 道しるべ

顔写真:宮内 優

12th International ISSX Meetingに参加して

九州大学大学院薬学研究院 細胞生物薬学分野
宮内 優

 この度,12th International ISSX Meeting (28-31 July, 2019; Portland, OR) に参加するにあたり,2019年度若手研究者海外発表支援事業に採択していただきました.日本薬物動態学会会長の山崎浩史先生,国際化推進委員会委員長の大槻純男先生ならびに選考委員の先生方に心から御礼申し上げます.

 私は2015年5月から一年半,米国National Institute of Environmental Health Sciences (NIEHS) の根岸正彦先生のもとでポスドクとして勉強させていただいたので,3年ぶりの渡米となりました.NIEHSがあったノースカロライナ州は車がないと移動ができませんでしたが,今回ISSXの会場となったオレゴン州ポートランドはMAX Light Railという路面電車が空港から繁華街を通って郊外までを結んでおり,公共交通機関によるアクセスが充実した都市でした.残念なことに乗り継ぎのサンフランシスコでポートランド行の飛行機が二時間遅れてしまったため,ポートランド空港についたのは午後8時でした.日は長かったものの,路面電車を乗り継いで郊外のホテルについた時は午後10時を過ぎてしまいました.あたりが暗くなっていたため,ドキドキしながらホテルにチェックインし,翌日からの学会参加に備えました.

 私は学生時代から薬物代謝酵素シトクロムP450 (P450, CYP) とUDP-グルクロン酸転移酵素 (UGT) の相互作用に関する研究を行っており,ポスドク後の2016年に現職に着任後,研究を再開して現在に至ります.これらの薬物代謝酵素は独立して機能すると考えられてきましたが,我々の先行研究により複合体を形成し,タンパク質間相互作用を通じて互いの酵素機能を制御することが示唆されています.今回は①UGTの主要分子種であるUGT1A9とUGT2B7が,CYP3A4活性を分子種依存的に抑制すること,②グルココルチコイドの一種であるデキサメタゾンを投与することで,ラットの肝臓においてUGT1Aから抑制を受けないCYP3Aの割合が増加し,その活性が上昇すること,の2点を発表しました.幸いなことに多くの先生方から今後の本研究の発展に有益なコメントを頂くことができました.今後はこれらのアドバイスを基にさらなる動物を用いた検討や,様々な分子種の組合せを包括的に評価する方法の確立に挑戦したいと思います.

 連日様々なシンポジウムを聴講しましたが,特にBhagwat Prasad先生 (University of Washington) のUGT2B17によるテストステロンの抱合活性をバイオマーカとし,このUGT活性を予測する研究が特に興味深かったです.また,このグループの学生さんがthe Pre-doctoral Poster Awardsを受賞したことから,同じUGTを研究する者として大いに刺激されました.

 また,質量分析装置を用いた薬物代謝酵素の定量に関する演題も勉強になりました.この定量法は既に様々なグループにより報告されていますが,AbbVie社のDavid Stresser博士やUniversity of North Carolina at Chapel HillのPhilip Smith先生のグループは,より簡便に定量を行う方法を開発していました.私の研究では,UGTの定量はウエスタンブロットで行っているので,将来的にはこれらの方法を用いた絶対定量法を取り入れることで,生体内のP450およびUGT量を反映させた評価を行いたいと考えております.

 今回は一人旅でしたが,現地で静岡県立大学の吉成先生,志津先生,金沢大学の中島先生,深見先生,竹本さんには大変お世話になりました.ダウンタウンで夕食をご一緒した際にいただいたアドバイスは今後の糧にしたいと思います.

 今回ISSXに参加し,国際学会で得られる経験値の多さを改めて実感しました.語学面での経験はもちろんのこと,研究や日々の過ごし方についてじっくりと多様な視点から考える良い機会になります.一人でも多くの学会会員の方が国際学会に参加したくなる,本体験談がその一助となれば幸いです.

 末筆ではございますが,日本薬物動態学会ならびに本事業の益々のご発展を祈念いたします.私自身も薬物代謝酵素の研究を通じて微力ながら尽力していきたいと思います.今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします.

ポスター会場の入り口で志津先生(静岡県立大学)と
志津先生(写真左)と著者(写真右)