Newsletter Volume 34, Number 5, 2019

学会 道しるべ

顔写真:野口幸希

12th International ISSX Meetingに参加して

慶應義塾大学薬学部薬剤学講座
野口幸希

 2019年7月28日~31日に米国オレゴン州のPortland Convention Centerにて開催された12th International ISSX Meetingに,2019年度日本薬物動態学会若手研究者海外発表支援事業にご採択いただいて参加いたしました.ご支援のお陰で有意義な経験をさせていただきましたこと,感謝申し上げます.

 今回,私は,筆頭発表者としては,「SUBSTRATE RECOGNITION AND CHLORIDE ION DEPENDENT TRANSPORT OF ANGIOTHENSIN II RECEPTOR BLOCKERS BY OAT4」の題でポスター発表を行いました.アカデミア及び企業の教授クラスから若手を含む幅広い研究者の方に話を聴きに来ていただいただき,議論を深めたことは,研究を進めていく自信となりました.

 ヒト近位尿細管での薬物輸送にトランスポーターOAT4が果たす役割について,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をモデルとした検討を行い,ARB活性代謝物がOAT4を介して排出方向にも輸送される可能性を示す結果を得ました.得られた知見からヒト腎クリアランスについての考察を発表し,近位尿細管での薬物相互作用についてのご質問や,clinical relevanceからスタートして原因を探索・証明していくことの重要性についてご指摘をいただきました.また,アニオン系薬物のヒト腎クリアランスの個体差について,興味深い報告も教えていただきました.これらのご質問やご指摘は,研究の位置づけやアプローチを改めて見直すきっかけとなりましたし,今後の研究計画立案にも役立てたいと思いました.

 また,元来,胎盤関門を中心に周産期薬物治療をテーマに研究しており,OAT4は胎盤関門を介した輸送にも関与します.ポスター発表では,胎盤や胎児での薬物代謝活性や母体胎児間の薬物移行について発表していたWashington大学の研究者と,互いのポスターについて意見交換し,研究方法についても議論することもできました.このことは,今後の研究活動を発展させる上で有益であると考えています.

 Leroy Hood先生(Providence St. Joseph Health)のご講演では,遺伝子,生化学検査,生活習慣,腸内細菌といった情報を,健常時と疾病時の長期に亘って収集し,情報を掛け合わせ,wellness→disease→wellnessという一連の状態変化を知ることで,適切な医療の提供とバイオマーカーや治療標的の発見を同時に実現する取り組みが述べられました.バイオマーカーと画像解析を用いたアルツハイマー病の亜型分類など,『特殊な集団の中でさらに治療を個別化していく研究』に21世紀の医療の姿を知ったとともに,これは本会全体に流れるテーマであったとも感じました.周産期を研究テーマにする者として,妊婦から胎児の情報を読み解く展開にも興味があります.また,大学教員としては,薬学教育や薬剤師業務におけるbig dataの扱いについても考えさせられました.

 Kerstin Schneeberger先生(Utrecht University)のご講演では,薬物性肝障害を適切に評価するための3D培養系モデル構築について述べられました.肝幹細胞から胆管様に分化させた細胞をL-Dopaとtype I collagenで覆ったポリエステルスルホンの中空繊維に沿って培養することで,極性を持ち,機能的により分化した胆管様構造を得る方法や,肝オルガノイドをゼラチンメタクリロイルハイドロゲルに埋め込むことで分化が促され,これを格子状に編み込み,支持体が蒸発してオルガノイドが中空になることで,肝毒性の評価が可能なモデルになること等が紹介されました.Organ-On-Chipはその他のご発表でも興味深い技術が多く,モデル構築における理工学分野との協働の可能性や必要性も感じました.

 Parallel SymposiaやFocus Group Sessionでは,小児や新生児,腎疾患患者での薬物動態,抗体・高分子のPBPKやPK/PD予測といった,個人的に興味の強い分野の講演を多く聴けたことも,大きな収穫でした.Poster presentationでは,Dermot McGinity先生(AstraZeneka)の血液脳関門の薬物透過性予測に関する発表が印象に残っています.MDCK_MDR1_BCRP細胞の薬物脳移行性スクリーニングにおける有用性を知ったと共に,自らの研究にも応用できる可能性を感じました.

 New Investigator Sessionも本会に参加して有益であったことの一つです.朝食を取りながらのround table形式で,アカデミア・企業・規制当局の大物から経験談を交えたお話を聞くことができました.積極的に質問する海外の若手研究者に負けじと質問をし,先生方とフランクにお話しできたことで,今後のキャリアパスや研究展開を考えるためのヒントが得られました.さらに,同席した海外の若手研究者と情報交換をし,繋がりを作ることもできました.このセッションも多くの若手研究者にとって有益な時間だったのではないかと思います.

 薬物動態学会でご活躍してこられた大先輩方のお陰で,発表支援を賜って学会に参加することができ,私も薬物動態学会を支えられるように努力を続けたいと思わせていただきました.この様な素晴らしい制度を利用して,多くの若手研究者の皆さんにも積極的に国際学会に参加してほしいと思っています.本会に参加し,ここに書ききれない程,多くの学びがありました.大変有難く思います.最後になりましたが,この場をお借りして,選考委員及び理事の先生方に心より御礼申し上げます.