Newsletter Volume 34, Number 4, 2019

DMPK 34(4)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

CYP1A2代謝における位置選択性とその優先順位の予測 その3:ヒトとげっ歯類CYP1A2の基質特異性の違いの原因と予測向上のための改良

Yamazoe, Y., et al.

 ヒトCYP1A2とラットあるいはマウスCYP1A2の間には基質特異性に違いのあることが知られている.我々がグリッド状Templateとして構築したヒトCYP1A2システムを用いて,ラットCYP1A2とマウスCYP1A2の基質特異性を解析し,共通性と種間での違いを示す原因について考察した.ヒトCYP1A2システムはラットCYP1A2とマウスCYP1A2の反応に適用可能なことから,基質との相互作用の主要機構には種差がないと判断された.これまでに報告された種差の原因を個別に検討した結果からヒトCYP1A2とげっ歯類CYP1A2の反応性の違いはTemplate上の5箇所での局所基質相互作用の不同に起因すると予測された.これらの知見はげっ歯類代謝データのヒトへの外挿及びげっ歯類毒性データの有用性を評価する際の信頼性向上に寄与することが期待される.

[Regular Article]

健康被験者における腎臓トランスポーター阻害による血清クレアチニン値およびクレアチニンクリアランスの変動推定

Nakada, T., et al.

 クレアチニンは腎機能マーカーの一つとして広く利用され,腎機能障害時には血清クレアチニン値(SCr)が上昇することが知られている.前報(DMPK 2018;33(1): 103-10)で,トリメトプリム服用中のSCr上昇について腎臓トランスポーターを介したクレアチニンの腎尿細管分泌阻害を考慮したモデル解析によって,定量的に説明可能であることを示した.今回の報告では,腎臓トランスポーター阻害薬(トリメトプリムを含む14化合物)の最高血漿中非結合形濃度および前報の解析方法に基づき,健康被験者における定常状態のSCr上昇率またはクレアチニンクリアランス(CLcre)低下率を概ね説明することができた.今後,本手法に基づき,新規開発化合物投与後のSCr上昇が腎臓トランスポーター阻害に起因するか判別することにより,腎機能障害の発症有無に加えて腎臓トランスポーターを介した薬物相互作用試験の必要性をより適切に判断する一助となることを期待する.

[Regular Article]

ラット肝小葉における有機アニオン性蛍光基質SR-101の不均一な分布にはOatp1a4が関与する

Akanuma, S., et al.

 酵素・膜輸送体などのタンパク質について,血液の流れとして肝臓の入り口にあたる門脈の周辺領域と,出口にあたる中心静脈の周辺領域とではその発現量に差異があると言われている.我々は,有機アニオン性蛍光物質スルフォローダミン-101(SR-101)をラットへ静脈内投与したところ,中心静脈周辺の肝細胞にて選択的に蓄積することを見出した.この輸送機能イメージング解析に免疫組織化学的解析を組み合わせての実験を行ったところ,有機アニオン輸送担体Oatp1a4の不均一な肝小葉内発現パターンとSR-101の蓄積パターンの同一性が観察された.さらに,各種in vitro解析を通じ,Oatp1a4はラット肝実質細胞における輸送寄与分子であることが示唆された.本知見を基に,今後ヒトなどの霊長類における有機アニオン輸送機構の肝臓における不均一性の解明が進むことで,アニオン性薬物の正確な体内動態予測や最適なドラッグデザインに繋がると期待される.

[Regular Article]

カニクイザル新鮮及び凍結肝細胞における薬物代謝酵素及びトランスポーターのmRNA発現プロファイルの比較

Koeda, A., et al.

 カニクイザルは,医薬品開発段階における非臨床試験において,げっ歯類以外の動物として選択され,特にフィリピン産のカニクイザルはMHCハプロタイプに着目すると他の産地と比較して遺伝的に均質であり,背景データも豊富であることからヒトのデータとの比較や臨床への外挿に有用な動物です.本研究では,カニクイザル肝臓から初代肝細胞を調製し,4週間培養したときのcytochrome P450,UDP-glucuronosyltransferase,トランスポーター等の全25種の遺伝子を対象に,mRNA発現量の経時変動について検証しました.当初は同じ3個体の新鮮肝細胞と凍結肝細胞を用いる計画でしたが,凍結後に解凍した肝細胞の接着性が低かったため,別の3個体との比較になりました.その結果,全6頭のカニクイザル肝細胞は,長期培養期間中のmRNA発現レベルでは個体差が殆どないことが明らかになりました.また,スフェロイド培養に加え,フィーダー細胞と共存させた平面培養でも細胞接着やmRNAの高発現を維持できることが示唆されました.

[Regular Article]

ヒトiPS細胞由来肝細胞を用いた胆汁鬱滞肝毒性評価

Sakai, Y., et al.

 胆汁鬱滞性肝障害は,薬物によるbile salt export pump(BSEP)及びmultidrug resistance-associated protein 2/3/4(MRP2/3/4)の機能低下により,肝細胞内に胆汁酸が蓄積することで起こる.また,サンドイッチ培養肝細胞モデルは,肝細胞への胆汁酸の取り込みと排泄を同時に評価することが可能である.本研究は,ヒトiPS細胞由来肝細胞が薬剤性胆汁鬱滞型肝障害評価に利用可能か明らかにするため検討を行った.その結果,サンドイッチ培養ヒトiPS細胞由来肝細胞(SCHiHs)に毛細胆管形成やMRP2発現及び胆汁酸の取り込み/排泄能が認められた.また,薬剤性肝障害(DILI)を起こすことが知られている22化合物のうち7化合物において,ヒト血清胆汁酸依存的に細胞毒性が認められたが,HepaRG細胞よりも感度が低かった.その原因の1つとして,SCHiHsにおけるBSEPの発現量がHepaRG細胞よりも低いことが考えられた.今後は,胆汁鬱滞肝障害をより鋭敏に検出可能な評価系を構築できるように研究を進め,医薬品候補化合物による毒性評価に貢献したい.

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PXR依存的なCYP3A4誘導の炎症シグナルに伴う減弱には,転写コアクチベーターGRIP1の競合が関与する

Okamura, M., et al.

 CYP3A4誘導は薬物間相互作用の主要な原因の一つであり,これには薬物応答性の転写因子である核内受容体PXRが中心的に働く.創薬過程ではヒト肝細胞を用いた酵素誘導試験が行われるが,炎症性サイトカインはPXRを介したCYP3A誘導を減弱させることが臨床研究や動物実験などにより示唆されており,健常人と炎症を伴う疾患の患者では酵素誘導の程度が異なると推察される.これまで炎症関連転写因子NF-κBがこの減弱に関与することが示唆されていたが,その作用機序は明確ではなかった.本研究において,PXRを介したCYP3A4遺伝子発現に対する炎症シグナルの影響を分子レベルで解析した結果,NF-κBに加えてAP-1も炎症シグナルによるPXR依存的CYP3A4転写の減弱に関与すること,PXR,NF-κB及びAP-1は共通の転写コアクチベーターGRIP1を利用すること,炎症シグナルによるNF-κB及びAP-1の活性化に伴いこれら転写因子とPXRの間でGRIP1の競合が起こる可能性があることを明らかにした.本研究により炎症が酵素誘導に及ぼす影響について分子レベルでの解明が進むものと期待している.

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ヒトUGT2A3抗体の作製とUGT2A3タンパク質発現の特徴付け

Gotoh-Saito, S., et al.

 UDP-Glucuronosyltransferase 2A3 (UGT2A3) はヒト肝,小腸および腎においてmRNAレベルで発現が報告されているものの,タンパク質レベルでの発現は明らかにされていない.組織におけるタンパク質の発現解析は,その機能を理解する上で重要である.タンパク質発現の解析法の中でもウェスタンブロッティング(WB)は,手技手法の簡便さと安価性の面で大きな利点がある.我々は,ヒトUGT2A3に対するモノクローナル抗体を作製し,UGT2A3タンパク質の発現を解析した.はじめに,16種のUGT分子種発現系を用いたWBにより,作製した抗体がUGT2A3のみを認識する特異性の高いものであることを確認した.この抗体を用いたWBにより,UGT2A3はN結合型糖鎖を有する糖タンパク質であり,肝に比べ小腸で約7倍発現が高いことを明らかにした.さらに,ヒト個人肝28サンプルを用いた解析からUGT2A3のmRNAとタンパク質発現量に高い相関があることを示した.今後,この抗体を利用してUGT2A3の構造や機能解析が進むことを期待する.

[Regular Article]

活性炭とフェノバルビタールの薬物相互作用の程度に対する食事の種類の影響

Ogata, Y., et al.

 活性炭はその吸着作用により同時投与した薬物の消化管吸収を低下させることが知られている.一方で,食後ではその相互作用の程度は減弱する可能性も報告されている.我々は今までに,消化管内で生じる薬物相互作用(DDI)の程度に対する食事の影響を評価するラットモデルを構築してきた.このモデルの特徴は,ラットに与える食事や薬剤は,ヒトが実際に摂取する標準朝食や,上市されている製剤そのものを用いること,また,それらの投与量は,ヒトで想定される消化管内濃度を基準に設定したことである.本研究では,当該モデルを用いて,標準朝食,高脂肪食,経腸栄養剤の3種類の食事群を設定し,食事の種類が活性炭とフェノバルビタールのDDIの程度に与える影響を定量的に評価した.その結果,標準朝食と高脂肪食群では,相互作用の程度が空腹時と比較して減弱したが,経腸栄養剤群では減弱しなかった.以上より,活性炭によるDDIの程度は食事摂取により減弱するが,その減弱の程度は食事の種類により異なる可能性を見出した.今後は,食事の種類により差異が出る原因について,食事の物性に着目し検討していく予定である.