Newsletter Volume 32, Number 5, 2017

技術・研究材料紹介(企業広告)

シンプルで再現性の高いタンパク質定量アプローチの登場

日本ウォーターズ株式会社
化学製品マーケットディベロップメント
佐々木俊哉

 2011年頃からブロックバスター低分子医薬品の特許切れ(パテントクリフ)の影響が本格化した.これら低分子医薬品に代わり売上上位にランクされているバイオ医薬品もHerceptin(2013),Humira(2016),Remicade(2017)と特許切れが続き,バイオシミラーや新規バイオ医薬品の開発が加速している.現在のバイオ医薬品の主流であるモノクローナル抗体などタンパク質ベース医薬品のバイオアナリシス(生体試料中濃度の定量)には,抗原抗体反応を利用したELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)に代表されるLBA(ligand binding assay)が使用されるが,類似構造を持つタンパク質と反応する交叉反応や,定量範囲などの問題点が知られている.また,アッセイ系の構築に時間とコストがかかることから,創薬や早期開発ステージにおいては使用しにくい.これらから,タンパク質をトリプシンなどで酵素消化し,ペプチドとしてLC/MSで定量する手法が注目されているが,解決すべき問題が多数残されている.

 ウォーターズが開発した新しいタンパク質バイオアナリシスサンプル前処理キットファミリー ProteinWorksは,再現性,正確性,および感度の高いタンパク質定量を可能にする.ProteinWorks eXpress消化キットは,タンパク質の消化をシンプル化および高速化し,タンパク質をその消化ペプチドで定量する方法において複雑になりがちな,分析前のLC/MSワークフローを効率化および標準化する.ProteinWorks uElution SPEキットは,消化後に,消化酵素と試薬,リン脂質,その他血漿や血清の余分な成分を取り除くことによって分析感度とシステムの頑健性を向上させる.

ProteinWorks eXpressキット

ProteinWorks eXpressキット

 

ProteinWorks eXpress消化キットのメリット

再現性

  • 最適化されたキットベースのアプローチにより,血漿中の代表的な4種類のmAbの相対標準偏差6%未満を達成
  • 効率的なプロトコールにより,サンプル前処理ステップ数を削減
  • キット間およびキット内の精度の高さにより,異なる日,ラボ,分析者間での結果の再現性を向上
表1 ProteinWorks eXpress 消化キットによるインフリキシマブ消化ペプチドのQC試験結果例
Peptide QC Conc
(ug/mL)
Mean Cal. Conc
(ug/mL)
Std. Dev. %CV Mean Accuracy
SINSATHYAESVK* 0.035 0.036 0.001 2.78 103.1
0.350 0.331 0.003 0.80 94.5
3.500 3.330 0.105 3.15 95.1
35.000 38.287 1.168 3.05 109.4
350.000

ProteinWorks eXpress消化キットを使用したインフリキシマブ定量で,SINSATHYAESVKペプチドからのQCサンプルの相対標準偏差は3%未満

感度

  • ラット血漿中のインフリキシマブで検出限界10ng/mLの高感度を達成
  • 全血漿またはアフィニティ精製された血漿サンプルの消化に最適化
  • uElution SPEでサンプル濃縮および塩類や残存消化試薬の除去により分析感度を向上
図1 ブランクラット血漿との比較でラット血漿中のインフリキシマブ10ng/mLを示すクロマトグラム.インフリキシマブはユニークペプチドSINSATHYAESVKを使用して定量

図1 ブランクラット血漿との比較でラット血漿中のインフリキシマブ10ng/mLを示すクロマトグラム.インフリキシマブはユニークペプチドSINSATHYAESVKを使用して定量

 

標準化とシンプル化およびハイスループット化

  • 広く適用可能なプロトコールにより,ディスカバリー研究のメソッド開発が不要
  • キットベースのアプローチにより,ラボ間,サイト間,スポンサーからCROへの移管が容易
  • シンプルで明確なプロトコールとロット管理された調製済みの試薬により,メソッド移管が容易で,タンパク質バイオアナリシス初心者でも安心
  • 分子量15万以上の抗体の変性~還元・アルキル化~消化まで約3時間.還元・アルキル化を必要としない場合は約2時間.分子量数万のバイオマーカーは30分以下で消化

Apolipoprotein A1

図2 血漿15μL中のApolipoprotein A1(分子量28,300)の消化時間検討例

図2 血漿15μL中のApolipoprotein A1(分子量28,300)の消化時間検討例

 

柔軟性

  • 柔軟性のある使いやすいフォーマットで,8連の1mLチューブストリップ12本に1~96サンプルを収容可能
  • 最適な結果を得るため,還元アルキル化の有無が異なる3ステップまたは5ステップのプロトコールを選択可能
  • 96ウェルフォーマットにより,自動化が容易
  • 分子量数万のバイオマーカーから15万以上の抗体まで幅広く適応
  • 抗体薬物複合体(ADC)にも対応

豊富なアプリケーション

表2 ProteinWorksキット日本語アプリケーション例
アプリケーションNo. 内容
720005535JA キットベースの標準化された迅速なアプローチでラット血漿中のインフリキシマブを高感度定量
720005534JA ProteinWorks eXpress Digestキットを用いたBevacizumab(Avastin)のシンプルで標準化された高感度定量
720005541JA 創薬研究サンプルの直接消化における,モノクローナル抗体医薬品定量の汎用キットベースアプローチ
720005619JA キットベースの汎用アプローチによる,血漿中抗体医薬品トラスツズマブとその抗体薬物複合体トラスツズマブエムタンシン(T-DM1)定量
720005544JA タンパク質バイオアナリシスにおけるトリプシンペプチドのクリーンアップに最適化されたユニバーサルSPEプロトコール
720005543JA ジェネリック内標準とタンパク質バイオアナリシスワークフローチェック用スタンダードとしてのマウス由来インタクトモノクローナル抗体
720005570JA ProteinWorks eXpress Digestキットによる相対標準偏差10%未満の再現性
720005575JA ProteinWorks eXpress Digestキットを使用した抗体定量
720005574JA ペレット消化(タンパク質を沈殿後に消化)とProteinWorks eXpress Direct Digestキットを使用したTrastuzumabのLC-MS定量
720005777JA 血漿中アポリポタンパク質A1 LC-MS/MS定量のための迅速なキットベースアプローチ
720005699JA アポトーシスのバイオマーカー候補であるシトクロムcの迅速消化と再現性のあるLC-MS/MS定量
720005819JA 炎症のバイオマーカー候補であるC反応性蛋白の高感度高精度LC/MS定量

現時点で日本語化されたアプリケーション例.www.waters.comから上記アプリケーションNo.でダウンロード可能.”proteinworks”アプリケーション情報で絞り込み検索すると,更に多くのアプリケーションをダウンロード可能.

まとめ

 LC/MSによるタンパク質バイオアナリシスには,タンパク質消化以外にも定量ペプチドの選択,ペプチド精製,LC分離条件,MS条件など多くの工程があり,各工程の最適化を行うためには経験と時間,労力が必要である.また異なる分析者やラボ間で再現性のある定量を行うためには,標準化が必要となる.

 ウォーターズが開発したタンパク質バイオアナリシスサンプル前処理キットファミリーProteinWorksは,タンパク質をその消化ペプチドで定量するLC/MSワークフローを効率化および標準化することにより,誰にでも再現性,正確性,および感度の高いタンパク質定量を可能にする.バイオ医薬品開発を強力にサポートするキットである.