Newsletter Volume 32, Number 5, 2017

DMPK 32(5)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

CYP1A2代謝の部位選択性とその反応順位の予測
第2報:CYP1A2と基質の相互作用を非PAH基質を用いてテンプレート上で読み解く

Yamazoe, Y., et al., pp. 229–247.

 CYP1A2は多環炭化水素化合物(PAH)だけでなく,医薬品,環境物質,農薬やステロイド等の代謝に関わっています.前報(DMPK 31, 363-384 2016)で,6員環状グリッドで構成される代謝予測のためのヒトCYP1A2テンプレートの作成とPAHs代謝への適用を示しました.今回の報告ではテンプレートの拡充,実際にはテンプテートCとDの追加と各部位環境の定義の精密化を行い,非PAHsのテンプレートへの適用を示しました.ヒトCYP1A2が関与する380物質の477反応を解析し,473反応の代謝をregio-/stereoselectivityを含めテンプレート上に再現できました.不一致を示した4反応のうち,2反応はフルオロアニリン誘導体に起こることが知られている転位が原因でした.残り2反応はCYP非選択的に起こるラジカル経由の現象と考えられました.本手法では,テンプレート部位選択的に起こる相互作用から阻害を判別することができます.非基質/基質の判別も本手法では可能です.これまでの予測手法とは異なりブラックボックスがないため,判定の根拠をテンプレート上での相互作用から知ることができるのがこの手法の特長です.

[Regular Article]

モノアミンオキシダーゼB及びアルデヒドオキシダーゼによるKW-2449の代謝

Hosogi, J., et al., pp. 255–264.

 近年non-P450酵素による代謝により医薬候補化合物の開発が中止になることが増加している.本研究では,Fms-like Tyrosine kinase 3(FLT3)阻害薬の開発候補化合物のサルPK試験で認められた高クリアランスの原因を検討し,化合物のピペラジン環がモノアミンオキシダーゼB(MAO-B)によりイミニウムイオン型の中間体に代謝され,さらにアルデヒドオキシダーゼ(AO)によりラクタム型の代謝物に変換されることを明らかにした.また,肝細胞での代謝安定性試験の結果から,これらnon-P450酵素による肝外代謝の寄与を推定すると共に,non-P450酵素への代謝安定性を高めることでin vivoの薬物動態プロファイルが改善することを示した.本研究が薬物代謝におけるMAO-B及びAOを始めとするnon-P450酵素代謝の寄与率検討や回避方法に役立つことになれば幸いである.また,見出されたイミニウムイオン中間体は高い反応性を有していることから,この代謝中間体による薬物動態や安全性上の問題について検討を続けていきたいと考えている.

[Regular Article]

ハンギングドロップ法により培養したHepG2細胞におけるpregnane X receptorの細胞内局在

Yokobori, K., et al., pp. 265–272.

 Pregnane X receptor(PXR)は肝臓の細胞質に発現し,リガンド結合により核移行する核内受容体である.一方,2次元培養したヒト肝ガン由来HepG2細胞はPXRを核に発現する.これまでに肝臓と2次元培養HepG2細胞でPXRの細胞内局在が異なる理由は明らかとなっていない.我々は,HepG2細胞の細胞周囲環境に着目し,3次元培養細胞とPXRの細胞内局在の関係について解析を始めた.その結果,ハンギングドロップ法で3次元培養したHepG2細胞はPXRを細胞質に発現すること,細胞質のPXRはリガンドであるRifampicinに応答し核移行すること,その際にPXRの標的遺伝子であるCytochrome P450 3A4の発現が誘導されることが明らかとなった.これらのことから,ハンギングドロップ法で培養したHepG2細胞はPXRを機能的に細胞質に保持することが示された.今後はPXRの細胞質保持やリガンドによる核移行機序を明らかにしていきたい.

[Note]

食事による経口吸収性変動の回避を指向したItraconazole自己ミセル形成型固体分散体の開発

Kojo Y., et al., pp. 273–276.

 Itraconazole(ITZ)は広い抗菌スペクトルを持つTriazole系抗真菌薬であり,多くの真菌感染症治療のために使用されてきた.一方でITZは弱塩基性の難水溶性薬物であるため食事による経口吸収性の変動リスクが報告されており,ITZの薬物治療における課題となっている.本研究ではITZのSelf-micellizing solid dispersion(SMSD/ITZ)化により食事における経口吸収性変動を回避することを目的とした.SMSD/ITZは基剤として高い可溶化能を有する Soluplus® を選択し,凍結乾燥法により調製した.SMSD/ITZは絶食ならびに摂食時を模した人口消化管液を用いた溶出試験においてITZ原末に比し速やかな溶出を示し,試験液間での溶出挙動の変動が小さいことを確認した.また,高脂肪食摂食ラットに対してITZ原末を投与したところ,絶食時に比較してOral bioavailability(BA)が14倍上昇したのに対し,SMSD/ITZは食事の有無に関わらず安定したOral BAを示した.これはSMSD技術による溶解性改善が経口吸収性変動回避に寄与したと考える.今後,詳細な物理化学的特性や安全性等に対する知見を重ねSMSD技術を醸成し,本技術を応用したITZ製剤を用いた治療への貢献を期待する.