Newsletter Volume 32, Number 5, 2017

展望

代謝DIS

金沢大学医薬保健研究域薬学系
中島美紀

 代謝DISは千葉 寛先生を初代委員長として2012年に発足し,第28回年会(2013年)におけるシンポジウム企画から活動をスタートしました.その後,第31回年会(2016年)のシンポジウム企画提案に際し,中島が二代目委員長を拝命し,代謝DISを引き継ぎました.2017年には,医薬品毒性は薬物代謝とつながりが深いことから,毒性DISとの融合が提案され,現在,以下のメンバーで活動を行っております.

伊藤晃成 千葉大学大学院薬学研究院
井上晋一 第一三共株式会社
小林カオル 千葉大学大学院薬学研究院
佐能正剛 広島大学大学院医歯薬保健学研究院
中川徹也 大日本住友製薬株式会社
成富洋一 アステラス製薬株式会社
山折 大 信州大学医学部附属病院薬剤部
吉成浩一 静岡県立大学大学院薬学研究科

 

 薬物代謝は医薬品化合物・医薬品候補化合物の体内動態制御に重要な役割を果たしており,薬効発揮や医薬品毒性の発症を左右します.体内動態の個人差や薬物間相互作用に,主な薬物代謝酵素であるシトクロムP450 (CYP)が関わっていることが明らかになり,特にCYPに関する情報の蓄積は,医薬品開発ならびに臨床における薬物治療の向上に大きく貢献してきました.次第に,創薬における志向性がCYP代謝化合物からnon-CYP代謝化合物へ,また低分子化合物から中分子化合物へと変化しつつあることに伴い,必要とされる薬物代謝情報も変化しており,対応が求められています.近年の薬物代謝酵素研究の進展により,生体における機能が未解明であった酵素が,薬物代謝反応を担っていることが明らかになるケースも増えており,生体で起こる反応について,我々はまだまだ理解していないことが多いのだと改めて感じ,探究心が刺激されます.

 薬物代謝によって,生体成分と反応することで毒性を示す,いわゆる反応性代謝物が生じることもありますが,反応性代謝物はその実態を捉えづらく,毒性との関連を実証することも容易ではないものの,これまで様々な取り組みがなされてきています.さらに,薬物代謝酵素は医薬品や環境汚染物質などの生体外異物の代謝・解毒のみならず,生体内物質の生合成をも担うことから,代謝酵素の生理学的意義の理解が,創薬につながる可能性もあります.

 代謝DISでは,薬物代謝を広い視野で捉えながらも,創薬や医療に役立つ薬物動態研究の推進をめざして,メンバーから寄せられた多くの提案の中から,時宜にかなったテーマを絞り込み,毎年3つシンポジウムを開催してきました.今年の第32回年会においても,以下の3つのシンポジウムを企画しました.その趣旨を紹介します.

【薬物動態と毒性の接点:最近のトピックス】

座長:伊藤晃成・成富洋一

 薬物動態と毒性には密接な関係があり,これまでもその関連性に関する多くの研究がなされてきましたが,近年,新たなin vitroおよびin vivo方法論が開発され,また,検討すべき課題も変化してきています.本シンポジウムでは薬物動態,特に薬物代謝が毒性に関係した最近のトピックスを取り上げ,今後の研究の方向性を議論したいと考えています.

【代謝酵素の生理機能の解明と創薬展開】

座長:佐能正剛・中川徹也

 薬物代謝酵素には,異物代謝のみならず内因性物質を基質とした生理機能が知られ,それを解明することは創薬標的につながる可能性もあります.例えば,CYP4やCYP2J2などは種々の内因性の生理活性物質の代謝に重要な役割を担っていますが,一方で,これらの酵素によって代謝される医薬品もあり,薬物代謝酵素としての機能をも考慮する必要があります.これら代謝酵素の基質特異性,阻害剤,発現調節機構,酵素活性の個人差,生理活性物質の代謝,生理機能などは,今後の創薬に重要な知見になるものと考えられ,本シンポジウムで議論したいと考えています.

【新規化合物の薬物代謝解明へのアプローチ】

座長:小林カオル・井上晋一

 新規化合物のCYPを介した代謝に関しては,多くの研究により情報が蓄積され代謝解明の方法論が確立されてきました.その後,UDP-グルクロン酸転移酵素 (UGT)やカルボキシルエステラーゼ (CES)についても研究が進んでいます.しかし,これらの酵素では説明できない新規化合物の代謝をどのように解明していくかについては,多くの課題が残されています.そこで本企画では,新規化合物および既存の医薬品の代謝解明に関する研究を紹介いただき,今後のアプローチに有益な議論ができればと考えています.

 

 薬物代謝は毒性だけでなく,分析・イメージング,New modality,臨床薬理など,多方面の研究領域(=他DIS)と関わります.代謝DISでのシンポジウム企画においては常に多岐に渡るテーマが挙げられ,その中には他領域と関連するものも含まれています.今後も,薬物代謝を主題としながら,他領域との融合を取り入れた発展的シンポジウムも積極的に提案していきたいと考えています.