Newsletter Volume 31, Number 1, 2016

展望

蔵本詩乃 

ベストポスター賞を受賞して

中外製薬株式会社前臨床研究部
蔵本詩乃

 この度,第30回日本薬物動態学会年会にてベストポスター賞という栄誉ある賞を授かり,大変光栄であるとともに嬉しく感じております.この場をお借りしてご審査頂いた選考委員の先生方にお礼申し上げます.

 医薬品開発において薬物間相互作用(DDI)評価は必要不可欠であり,特に薬物代謝への寄与の高いCYP3A4の評価は非常に重要です.CYP誘導評価において,FDAは各社に陽性対照薬を用いたthresholdの設定を推奨しており,EMAは誘導リスク評価法としてRelative Induction Score(RIS)法を推奨しています.RIS法ではEmaxおよびEC50の誘導パラメーターの算出が必須とされますが,化合物の細胞毒性や低溶解性によりこれらパラメーターの算出が難しいケースも散見されます.そこで,我々はEmaxおよびEC50を算出する必要のないRelative Factor(RF)法を用いた簡便かつ開発申請にも対応可能なリスク評価法の構築を目的に,RF法のEmaxモデルへの適応性を評価しました.

 3Lotの凍結ヒト肝細胞を用い,10種のCYP3A4誘導剤のmRNA誘導能を測定しました.RF法は誘導が有意に上昇する誘導倍率(Control+3SD)における誘導剤濃度を求め,reference(ref)化合物との濃度比RFを算出し誘導リスク評価に用います(RF = Cref/C = EC50ref/EC50).Ref化合物としてrifampicinおよびphenobarbitalを用い,これら両化合物についてRF×Css,uと臨床DDI induction ratioをLotごとにプロットしたところ,いずれもよい相関が認められました.これらのプロットから臨床で1.25倍の誘導を示すRF×Css,u 値を指標にthresholdを設定しました.また,rifampicinに対するRF値を用いて算出したRISと,実測したEmaxおよびEC50を用いて算出したRISを比較した結果,前後2倍の範囲内にほとんどの化合物が含まれました.これらの結果からRF法はEmaxモデルへ適応可能であり,今まで評価が困難であった化合物についても医薬品開発におけるCYP3A4誘導リスク評価に用いることができると考えられます.

 最後に,本研究を遂行するにあたり多大なご協力を頂いた中外製薬の共同研究者の皆様にこの場を借りてお礼申し上げます.

演題:Evaluation of adaptability of RF approach in Emax model for risk assessment of CYP3A4 induction in clinic