Newsletter Volume 31, Number 1, 2016

展望

佐野大和 

ベストポスター賞を受賞して

東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室
佐野大和

 この度,第30回日本薬物動態学会年会において,ベストポスター賞という名誉ある賞を頂き,大変光栄に思っております.ご審査いただきました選考委員の先生方,日本薬物動態学会関係各位の皆様に厚く御礼申し上げます.

 薬物トランスポーターの内因性基質の発見は,薬物トランスポーターの生理学的意義や薬物間相互作用の予測・内因性プローブの発見などにつながる可能性があり,今回の私の演題発表では後者に焦点を当てています.では内因性プローブの発見から臨床への応用として,どのようなアプローチが可能でしょうか.

 米国食品医薬品局 (FDA)は,新薬の開発過程において非臨床試験の段階で薬物間相互作用が疑われる場合,プローブ薬を用いた臨床試験を実施し,医薬品の安全性を担保することを推奨しています.しかしながらプローブ薬の投与は第Ⅱ相試験でなければ実施できず,プローブ薬自体による副作用も否定はできません.

 そこで私は,薬物トランスポーターが医薬品以外にも内因性物質や食物由来代謝物の輸送を担っていることに着目し,プローブ薬を投与せずに薬物間相互作用を予測できないか考えました.私の研究では,OAT1, OAT3という2つのトランスポーターの機能がprobenecidを投与することによって阻害されたヒトの血漿や尿のメタボローム解析を行い,対照群と比較してピーク強度が異なっているものを内因性基質の候補として解析を進めております.その中でもピーク強度が大きく変化したtaurineとglycochenodeoxycholate-3-sulfate(GCDCA-S)に着目し,OAT1/OAT3発現系HEK293細胞を用いた取り込み試験によって取り込み活性を評価しています.今後は両化合物を内因性プローブとして利用することで,これまでに必要であったプローブ薬を使用したDDI試験を代替できることを期待しています.

 最後になりましたが,本研究の遂行に際してご指導いただいた当研究室の楠原洋之教授,前田和哉講師,林久允助教,水野忠快助教,学生の皆様,共著者の鶴谷有理様(旭化成ファーマ株式会社)にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.

演題:Investigation of endogenous compounds for quantitative evaluation of drug interactions involving renal organic anion transporters