Newsletter Volume 31, Number 1, 2016

展望

廣瀬 友 

ベストポスター賞を受賞して

東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室
廣瀬 友

 この度,第30回日本薬物動態学会年会において,ベストポスター賞という大変栄誉ある賞を頂き,誠にありがとうございます.年会長の横井 毅先生をはじめ,ご審査いただきました選考委員の先生方,日本薬物動態学会関係各位の皆様に深く感謝申し上げます.

 胆汁酸トランスポーターBile salt export pump(BSEP)の遺伝子変異は,進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型という希少難治性疾患の原因となります.これまで本疾患に対しては肝移植以外に有効な治療法はありませんでしたが,私たちの研究グループは,これまでの基礎研究において,尿素サイクル異常症の治療薬であるフェニルブチレートが,BSEPの分解を抑制することにより発現量を上昇させることで胆汁うっ滞を改善し,進行性家族性肝内胆汁うっ滞2型の患者に有効である可能性を示す結果を得ていました.この基礎研究成果に基づいた創薬研究を進め,本疾患症例を対象とした臨床研究を実施することにより,フェニルブチレートには,この病気を原因とした肝障害,ならびにかゆみを改善させる効果があることを発見しました.今後,本薬剤が肝移植に代わる,進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型の新規治療法として普及することが期待されます.また,進行性家族性肝内胆汁うっ滞症に限らず,肝臓の病気を原因としたかゆみに対する有効な治療法は現在無く,こどもたちの生活の質を低下させる主な要因になっています.従って,本薬剤は,進行性家族性肝内胆汁うっ滞症のこどもたちをかゆみという悩みから救い出すだけではなく,他の肝臓の病気によるかゆみに対する効果も期待できます.そして本研究において用いられたアプローチは,他のトランスポーター関連疾患に対する医薬品開発においても応用ができると考えています.

 最後になりましたが,本研究の遂行に際してご指導いただいた当研究室の楠原洋之教授,前田和哉講師,林 久允助教,水野忠快助教,学生の皆様,共著者の直井壯太朗様(中外製薬),井上 建様(独協医科大学越谷病院),谷川 健様(久留米大学病院),長坂博範様(宝塚市立病院),鹿毛政義様(久留米大学病院),乾あやの様(済生会横浜市東部病院)にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.

演題:Successful treatment with 4-phenylbutylate in patients with familial intrahepatic cholestasis