ニュースレター編集委員会より

はじめに

 近年,人工知能(AI)の活用が広がり,我々の生活の多くの面でその力を借りるようになりました.医療現場では診断支援や疾患予測に,科学技術の分野では大量のデータを処理し新たな発見を導き出す強力なツールとしてAIが利用されています.その1つがOpenAI社の開発した自然言語処理AI「ChatGPT」で,大量のテキストデータから学習し,自然な対話を生成するツールです.ChatGPTは今や我々の身近な存在となり,すでに多くの方々がその便利さを享受しているのではないでしょうか.

 ChatGPTを活用する場合,AIに与える質問や命令を意味する「プロンプト」の設定が重要となります.プロンプトは我々の求める情報をChatGPTに正確に伝える手段であり,どのような情報を求めているのか,どのように問いかけるべきかを精緻に設定することが求められます.ChatGPTの活躍はまだ始まったばかりで全貌は見えていませんが,可能性は計り知れません.ChatGPTを薬物動態学の分野において活用し,最適なプロンプトを設定できたら,新たな治療法の発見や画期的な新薬の開発に繋がることも夢ではありません.実はこの「はじめに」の原稿自体もChatGPTの助けを借りて作成しており,まさに我々がAIと共に新たな道を切り開いていると実感できます.

 今号のニュースレターも充実した内容となっていますので,ぜひお楽しみ下さい.(Y.K.)

【トピックス】

  • 薬物動態学会ニュースレター発:レギュラトリーサイエンス情報

【受賞者からのコメント】

  • 学会賞を受賞して(松永民秀)
  • 奨励賞を受賞して(畠山浩人)
  • 奨励賞を受賞して(増尾友佑)
  • 創薬貢献・奨励賞を受賞して(笹原克則)

【学会 道しるべ】

  • 25th North American ISSXに参加して(橋本芳樹)
  • 25th North American ISSXに参加して(間竹 勇)

【DMPK 53に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」】

  • 複数CYP分子種を同時阻害するリトナビルと直接経口抗凝固薬との薬物相互作用の評価
  • ゲノムデータバンク由来のレアではあるが機能低下のあるフラビン含有酸素添加酵素3(FMO3)遺伝子バリアントの簡易検出
  • COVID-19に罹患した腎移植患者におけるタクロリムスとニルマトレルビル/リトナビルの薬物間相互作用に関する薬物動態モデル解析
  • 脳脊髄液,血漿および脳におけるグルコシルスフィンゴシンの定量と特性解析を通じたゴーシェ病サル病態モデルの開発
  • 等電点を改変したモノクローナル抗体のマウスにおけるFcRn依存的な分布増強を記述する生理学的薬物動態モデル

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トピックス

薬物動態学会ニュースレター発:レギュラトリーサイエンス情報

 ガイドライン及びICHでの規制調和活動の最新動向など,薬物動態領域に関わるレギュラトリーサイエンス情報について,ニュースレター委員会より報告します.・・・(続きはNLホームページへ/会員専用

受賞者からのコメント

顔写真:松永民秀

学会賞を受賞して

名古屋市立大学大学院薬学研究科 臨床薬学分野
松永民秀

 この度,「薬物動態研究に有用なヒトiPS細胞由来細胞の開発」という題目で,日本薬物動態学会・学会賞の栄誉を賜りました.日本薬物動態学会会長の山下富義先生,理事会の先生方および学会賞等選考委員会の先生方を始め,関係の諸先生方に心より感謝を申し上げます.また,本賞にご推薦を賜りました琉球大学病院 教授・薬剤部長の中村克徳先生に,厚く御礼を申し上げます.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:畠山浩人

奨励賞を受賞して

千葉大学大学院薬学研究院 薬物学研究室
畠山浩人

 この度,「免疫チェックポイント阻害剤の薬効・副作用に影響する薬物動態要因に関する研究」という題目で令和5年度日本薬物動態学会奨励賞を賜り,大変光栄に感じております.推薦を頂きました千葉大学の樋坂章博先生,並びに日本薬物動態学会会長,副会長,理事,選考委員の先生方に深く御礼申し上げます.私が本研究を開始したのは,2016年1月に米国留学から帰国し千葉大学大学院薬学研究院の樋坂研究室に加えて頂いてからです.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:増尾友佑

奨励賞を受賞して

金沢大学医薬保健研究域薬学系 分子薬物治療学研究室
増尾友佑

 このたび「構造選択的メタボロミクスによる膜輸送体の生体内基質同定」という題目で令和5年度日本薬物動態学会奨励賞という名誉ある賞を受賞でき,光栄に感じております.奨励賞に推薦くださいました金沢大学の加藤将夫教授をはじめ,選考委員の先生方,実行委員の先生方に厚くお礼申し上げます.本稿では受賞対象となりました,膜輸送体の機能解析に最適化したメタボロミクスについて紹介致します.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:笹原克則

創薬貢献・奨励賞を受賞して

大塚製薬株式会社
笹原克則

 この度は,「Robotics,IT,機械学習及び計算化学を用いた創薬スクリーニング基盤研究」という題目で令和5年度創薬貢献・奨励賞を賜りました.この大変名誉ある賞をいただき,身に余る光栄です.日本薬物動態学会役員,選考委員会の先生方,ならびに本賞にご推薦くださいました大塚製薬株式会社 樫山英二博士に厚く御礼申し上げます.私はこれまでの研究生活の中でin silicoを活用した研究に取り組んでまいりました.誠に僭越ながら,以下で私の研究について,ご紹介をさせて頂きます.・・・(続きはNLホームページへ

学会 道しるべ

顔写真:橋本芳樹

25th North American ISSXに参加して

東京大学大学院薬学系研究科 分子薬物動態学教室
橋本芳樹

 2023年9月10日-13日,米国マサチューセッツ州ボストンにて25th North American ISSX Meetingが開催されました.この度私は,2023年度(後期)若手研究者海外発表支援事業にご採択いただき,本学会に参加いたしました.選考にあたり,日本薬物動態学会会長の山下富義先生,国際化推進委員会委員長の中島美紀先生をはじめ,選考委員会の先生方に厚くお礼申し上げます.本学会は私にとって初めての国際学会への参加であると同時に,初めての海外渡航でもあり,貴重な経験をすることができました.拙筆ながら読者の皆さまにその経験をお伝えできれば嬉しく思います.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:間竹 勇

2023年度(後期)若手研究者海外発表支援を受けて

名古屋市立大学大学院薬学研究科 薬物動態制御学分野
間竹 勇

 私は,2023年9月10-13日に米国マサチューセッツ州ボストンにて開催された25th NA ISSX meetingに,日本薬物動態学会の若手研究者海外発表支援を得て参加し,「FUNCTIONAL CHARACTERIZATION OF ENT2/SLC29A2 AS A URIC ACID TRANSPORTER」という題目にてポスター発表を行いました.尿酸の体内動態に関しては,その高い水溶性から生体膜透過過程においてトランスポーターの関与が知られています.そのため,尿酸の体内動態の理解のためには,尿酸トランスポーターの把握が重要ですが,尿酸産生臓器である肝臓や小腸での尿酸の血中移行に関わるトランスポーターの情報は乏しいのが現状です.・・・(続きはNLホームページへ

DMPK 53に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

複数CYP分子種を同時阻害するリトナビルと直接経口抗凝固薬との薬物相互作用の評価

Tamemoto, Y., et al.

 COVID-19のパンデミックを背景に,直接経口抗凝固薬(DOAC)とブースターとしてリトナビル(RTV)を含む薬物との強力な薬物相互作用(DI)に関する症例報告(Testa S et al, 2020)が注目を集めた.また同時期にブースター用量のRTVを含むパキロビッドがCOVID-19治療薬として特例承認された.我々はこの未解明のDIについて,薬物動態学的観点からRTVを詳細に解析しなおすことでパキロビッドの適正使用に貢献できると考え,in vitro実験や副作用データベース解析を行った.in vitro実験で用いる緩衝液の選択など,DI研究の原点に立ち返った検討及び米国の副作用データベースFAERSを用いたヒトで実際に生じた有害事象の詳細な解析から,DOACの一つであるアピキサバンとRTVを併用した場合に“死亡”のリスクが臨床的に上昇すること,DOACとRTVのDIにはCYP3A以外にも複数の分子種の寄与があることを明らかにした.本研究成果がRTV含有製剤のDI管理に活用されることを期待する.

 

[Regular Article]

ゲノムデータバンク由来のレアではあるが機能低下のあるフラビン含有酸素添加酵素3(FMO3)遺伝子バリアントの簡易検出

Shimizu, M., et al.

 ヒト成人肝に発現するフラビン含有酸素添加酵素3(FMO3)の機能不全はトリメチルアミン尿症の一因として知られている.著者らは,定期的に更新される東北大学東北メディカル・メガバンク統合データベースのゲノム情報の探索から酵素機能に影響を及ぼすFMO3遺伝子バリアントを47種報告した.これらの変異のうち,組換え体を調製して調べた酵素機能が野生型に比較して50%以下を示す変異に着目し,PCR-制限酵素断片長多型法およびアリル特異的PCR法を用いた簡便な変異検出法を検討した.近接した塩基配列の置換によって生じる同位置のアミノ酸置換は酵素機能に明確な差が存在する場合があり,PCR-制限酵素断片長多型法に加えて第2段階にアリル特異的PCR法を追加する必要があった.これらの判定法を活用することにより,問題のあるFMO3遺伝子バリアント判定が医療現場でも可能となると推察される.

 

[Regular Article]

COVID-19に罹患した腎移植患者におけるタクロリムスとニルマトレルビル/リトナビルの薬物間相互作用に関する薬物動態モデル解析

Tomida, T., et al.

 タクロリムスとニルマトレルビル/リトナビルが併用投与された結果,タクロリムスの血中濃度が顕著かつ長期間にわたって上昇し,副作用のため入院治療が必要となった症例を経験した.本研究ではこの症例の臨床経過を示すとともに,この相互作用による薬物動態の変化をモデル解析した.その結果,ニルマトレルビル/リトナビル併用時には,タクロリムスのクリアランスは35%に減少し,同時にバイオアベイラビリティが18.7倍に増加すること,そして,その阻害作用は併用中止後も10日程度遷延することが示された.これはニルマトレルビル/リトナビルのCYP3AおよびP-糖蛋白に対する強力な阻害作用によるものと推察される.したがって,ニルマトレルビル/リトナビルと,タクロリムスのようにCYP3AおよびP-糖蛋白の基質でありバイオアベイラビリティが低い薬剤との併用は,非常に大きな薬物動態変化のリスクを生じるため,併用する場合にはタクロリムスの投与を中止することが必須と考えられる.

 

[Regular Article]

脳脊髄液,血漿および脳におけるグルコシルスフィンゴシンの定量と特性解析を通じたゴーシェ病サル病態モデルの開発

Sato, S., et al.

 非臨床動物へのコンデュリトール-β-エポキシド(CBE)投与は,ゴーシェ病(GD)などのグルコセレブロシダーゼ(GBA)の変異に伴う疾患モデル動物を作製する上で強力なアプローチとしてマウスにおける研究成果から期待されている.しかし,脳脊髄液中のグルコシルスフィンゴシン(GlcSph)濃度の変化が,臨床的に有用と期待される脳内濃度の変化と定量的に相関しているのか,またその相関の種差に関してサル病態モデルが報告されていないため十分に解明されていない.本研究では,最も低濃度での検出が想定された脳脊髄液(CSF)中のGlcSph濃度に関して既報をもとにLC-MS/MSを用いた高感度分析法を確立し1) ,サルへCBE投与後の脳,血漿,CSF中のGlcSph濃度の経時変化を明らかにした.これらの結果はCSF中GlcSphが脳内GlcSphの濃度変化を予測するうえで代替マーカーになりうることを示し,同疾患の臨床試験でのCSF中GlcSph評価の妥当性をサポートするだけでなく,マウスに加えサルでの評価が可能になったことで,この分野のtranslational research研究が加速するものと期待している.

 1) J Pharm Biomed Anal. 2022, 5:217:114852. doi: 10.1016/j.jpba.2022.114852.

 

[Regular Article]

等電点を改変したモノクローナル抗体のマウスにおけるFcRn依存的な分布増強を記述する生理学的薬物動態モデル

Naoi, S., et al.

 著者らは,高い等電点(pI)を有するモノクローナル抗体がマウスにおいて速い血漿クリアランスと大きな定常状態分布容積を示す傾向があることを報告している.しかしながら,報告されている生理学的薬物動力学(PBPK)モデルでは,抗体の組織間質への移行において,Convectionによる経路に比してFcRn介在性トランスサイトーシスの経路の寄与が小さく設定されているため,上記の傾向を記述することはできなかった.そこで,本研究で構築したPBPKモデルでは,生理学的パラメータ(リンパ流速,反射係数,内皮細胞取込みクリアランスおよびFcRn濃度)を,野生型およびFcRnノックアウトマウスにおける様々なpI値を有する抗体の薬物動態プロファイルに基づいて最適化した.本モデルは,抗体の組織間質への移行経路の寄与をより良く反映し,望ましい組織分布プロファイルを達成するための抗体エンジニアリングへの洞察を提供するものと期待している.

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