Newsletter Volume 38, Number 6, 2023

学会 道しるべ

顔写真:橋本芳樹

25th North American ISSXに参加して

東京大学大学院薬学系研究科 分子薬物動態学教室
橋本芳樹

 2023年9月10日-13日,米国マサチューセッツ州ボストンにて25th North American ISSX Meetingが開催されました.この度私は,2023年度(後期)若手研究者海外発表支援事業にご採択いただき,本学会に参加いたしました.選考にあたり,日本薬物動態学会会長の山下富義先生,国際化推進委員会委員長の中島美紀先生をはじめ,選考委員会の先生方に厚くお礼申し上げます.本学会は私にとって初めての国際学会への参加であると同時に,初めての海外渡航でもあり,貴重な経験をすることができました.拙筆ながら読者の皆さまにその経験をお伝えできれば嬉しく思います.

 私は本学会において,“Development of serotonin release assay with cultured enterochromaffin cells for the risk assessment of emesis induced by tyrosine kinase inhibitors”(培養enterochromaffin細胞を用いた分子標的薬による嘔吐リスク評価に向けたセロトニン放出評価系の構築)の演題にてポスター発表を行いました.私は,消化管スフェロイド/オルガノイドを用いた薬剤誘導性消化器毒性のin vitro評価系の構築に取り組んでいます.本発表では,薬物刺激に伴う小腸上皮中のenterochromaffin細胞からの過度なセロトニン分泌が中枢神経系を刺激し嘔吐を惹起する機序に着目し,薬剤誘導性悪心・嘔吐のin vitro予測系の開発について報告いたしました.

 (少し余談になりますが…)99%の不安と1%の期待を胸に,産まれてはじめて日本の地を飛び立ちましたが,そこには多くの試練がありました.経由地のニューヨークに到着しドキドキの入国審査もパスし,ボストンへの乗り継ぎ便へと急ぎましたが,待ち受けていたのは「欠航」の二文字です.そして深夜の振替便を指定されるもこれも欠航.挙句の果て,預けていた荷物は空港の端の方に捨てられており,ロストバゲージ寸前でした.急遽ニューヨークで1泊し翌日のボストン入りを目指すも,これまた全便欠航.一時は学会に参加できないかもしれない事態に陥りました.そして何としてでも学会会場にたどり着くために,電車で4時間かけて移動し,会場入りを目指すことになりました.移動の間にも日本への帰国便の予約を取り消しされそうになる等,初めての異国の地での自分の運の悪さを呪いましたが,同行の北里大学前田和哉先生のおかげで無事にボストンに辿り着けたときには感極まりました.前田先生にはこの場を借りて深く感謝申し上げます.ボストンへの到着が遅れてしまい,welcome receptionに参加できなかったのは残念ですが,次回以降の楽しみにとっておこうと思います.

 さて,ようやく念願のボストンの学会会場に到着し自分のポスターを会場に貼るや否や,掲示を心待ちにしていた海外の研究者の方が一目散に駆けつけてくれたのが何よりも印象に残っています.その方は,セロトニンの代謝に関わることが明らかとなったorphan代謝酵素を研究されている方で,研究分野は異なるものの同じセロトニンというワードを通じて研究内容を共有し合うことができました.また,話していると同い年の大学院生であることも分かり,海外の研究者とコミュニケーションが取れるかが不安で出国前から緊張していたのが一気にほぐれたことを覚えています.ポスター発表では,なかなか多くの関心を引き集めるには至らず決して満足のいく発表とはなりませんでしたが,ご来訪いただいた方々は皆,薬物の体内動態評価に従事されている研究者であったため,まずは異分野の毒性研究についてgeneralに面白みを知ってもらおうと努めました.嘔吐という現象をin vitroで評価できる可能性について研究の魅力を少しでも共有できていれば嬉しく思います.また,ポスターのコアタイム以外にも自分のポスターに注目されている方が遠目にでも目に入ったら,自分から積極的に話しかけに行けば良かったな,というのが今回の反省点でもあります.今後は国内外の学会を問わず,学会発表の場をもっと自分の研究をアピールする場として活用し,ネットワークを広げたいと強く感じました.同時に,英語でのコミュニケーションは非常に難しく,伝えたいことをうまく言葉にできないもどかしさも痛感しました.しかしながら,こればかりは場数を踏んでいくしかないものと思います.Globalに活躍できる研究者を目指す上で,今回のISSXへの参加を英語でのコミュニケーション能力を磨く契機にしたいと思います.

 海外研究者の発表では,drug-induced liver injury(DILI)のセッションが特に印象に残っています.臓器は違えども同じ毒性研究ということもあり,少しでも自分の研究に還元できるものはないか,という視点で拝聴しました.Kymera Therapeutics 社のWilliam Proctor先生は,50年以上前に遡るアセトアミノフェンによる肝障害の発見から現在に至るまでのDILI評価の進歩を振り返っており,intrinsicな肝障害からidiosyncraticなものに至るまで,毒性を惹起する個々の機序に基づき適切な評価モデルで毒性を評価する必要性を問うており,消化管障害性の予測にも同様の必要性を再認識しました.また,Purdue UniversityのYoung Jeong先生による,アセトアミノフェン誘導性肝障害における腸内細菌叢の関与についての発表が印象に残っています.肝障害の増悪を決める因子のひとつに腸内細菌叢の代謝物を同定しており,標的組織以外の異種細胞系や細菌叢が絡む複雑な毒性評価について自分の研究にも還元性のある有益な発表でした.

 この他にも,米国の製薬企業でご活躍されている日本人研究者の方と会食をする機会が得られるなど,ISSXの渡航を通じて貴重な経験を積むことができました.これまで私は不安を理由に国際学会の参加を敬遠しがちでありましたが,ISSXの参加を通じて井の中の蛙だった視野を広げることができ,国際的に活躍できる人材となるための課題を認識することができました.初めての海外での滞在や初めての国際学会での発表,また海外ならでは(?)の多々のトラブルを通じて,帰国したときの自分は出国する前に比べて少しだけ成長できた気がします.今後,この経験を活かして更なる研究の発展に努めたいです.日本薬物動態学会員の若手研究者の皆さまにも,是非本事業を通じて国際学会での発表を行い,研究活動を飛躍させる機会にしていただければと思っています.

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