Newsletter Volume 34, Number 1, 2019

受賞者からのコメント

顔写真:原谷健太

DMPK賞 1st Place賞を受賞して

中外製薬株式会社 バイオ医薬研究部
原谷健太

 この度,我々の発表論文 ”Quantitative prediction of therapeutic antibody pharmacokinetics after intravenous and subcutaneous injection in human” が2017年度DMPK賞 1st Place賞に選ばれました事,大変光栄に存じます.この場をお借りしまして,選考下さいました先生方に深く御礼申し上げます.

 本発表論文では,近年その優れた特性から研究開発が加速している抗体医薬品のヒトにおける体内動態予測に焦点を当て,血中濃度推移の定量的予測及び皮下投与時における吸収パラメータ予測を試みました.

 抗体医薬品の体内動態に重要な役割を担っている胎児性Fc受容体(neonatal Fc receptor, FcRn)と抗体医薬品の結合の種差により,ヒトにおける抗体医薬品の体内動態の予測には一般的にカニクイザルが用いられますが,これまでの報告では経験則からクリアランス及び分布容積を予測する事に留まり,血中濃度推移全体を記述するすべてのパラメータを予測する方法論は報告されていませんでした.また,抗体医薬品は皮下投与製剤としても用いられますが,ヒトにおける皮下からの吸収パラメータが動物のデータから予測が出来ない事が報告(Richter WF et al., AAPS J. 2012;14(3):559-70.)されており,適切な方法論がありませんでした.

 我々は上記課題を解決すべく,報告されている様々な抗体医薬品のカニクイザル及びヒトにおける体内動態パラメータを収集し,血中濃度推移を記述する2コンパートメントモデルにおけるすべてのパラメータの最適な予測スケーリングファクターを見出し,良好な予測精度を示す方法論を確立しました.さらに皮下からのバイオアベイラビリティーがクリアランスと良好に相関する事を見出し,また吸収速度定数はヒトにおける様々な抗体医薬品の幾何平均値を用いる事で,皮下投与後の血中濃度推移を良好に予測する事に成功しました.またこれらの方法論はFcRn結合性を増強する事で体内動態を改善した次世代型抗体医薬品にも適用できる可能性がある事を示しました.

 本研究結果は,今後更なる競合の激化が予想される抗体医薬品の研究開発において,正確にヒトにおける体内動態を予測する事で,競合優位性を正しく見積もる事を可能とし,医薬品の成功確率の上昇に大きく寄与する事が期待されます.また今後ヒトにおける薬効を精度良く予測するためのPKPD解析への応用も視野に入れ,本研究の更なる発展に努めたいと思います.

 末筆ながら,本研究を通しまして終始ご懇篤なるご指導・ご鞭撻を賜りました中外製薬株式会社 研究本部 前臨床研究部 橘 達彦 博士及び研究本部 研究本部長 根津淳一 博士に深甚なる謝意を表します.