Newsletter Volume 31, Number 6, 2016

DMPK 31(6)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

安定同位体標識化合物を用いたVerapamilの体内動態と薬物相互作用の要因解析

Kataoka, M., et al., pp. 405-410.

 薬物経口投与後の体内動態を決定する要因(Fa, Fg, Fh, CLtotなど)を明らかにするためには,経口投与と静脈内投与試験が必要である.しかしながら,解析するためには2群必要であることや,消失過程などに非線形性が生じるような場合では,投与量の設定が困難となる.さらに個体間差が大きい場合や薬物相互作用惹起時では体内動態の定量的な解析が困難と考えられる.そこで,同一個体において経口投与後の血漿中濃度とそのときにおける消失過程を分離評価する手法として,経口投与後に安定同位体で標識した同薬物を微量静脈内投与する手法の有用性の検証を行い,さらに薬物相互作用惹起時における変動要因の定量的解析を試みた.安定同位体標識化合物は,創薬において分析の標準物質などとして使用されることが多いため,静脈内投与後の両化合物の体内動態に顕著な差が認められなければ本手法に適用しやすいと考えられる.本研究では,CYP3A4やP-gpの基質であるverapamilをモデル薬物として使用したが,今後は他のトランスポーターやその阻害による体内動態の変動要因解析など通じて本手法の有用性を検証する予定である.

 

[Regular Article]

肺胞上皮細胞のP-glycoprotein機能に及ぼすタバコ煙抽出物の影響

Takano, M., et al., pp. 417-424.

 肺は喫煙によってタバコの煙に直接暴露される器官であり,これまで肺の生理機能に及ぼす喫煙の影響について様々な見地から検討されてきた.しかし,生体防御に重要な役割を担う異物排出ポンプP-glycoprotein(P-gp)に対する影響については情報が乏しい.本研究では,肺胞上皮を構成するⅠ型細胞とⅡ型細胞におけるP-gp発現およびその機能に対するタバコ煙抽出物(CSE)の影響について解析した.その結果,P-gpはⅡ型細胞からⅠ型細胞への分化転換に伴って発現・機能してくること,CSEはP-gp機能を阻害することを明らかにした.さらにこれまでP-gpを安定的に自然発現している株化培養肺胞上皮細胞は知られていないため,新たに樹立したA549/P-gp細胞を用い,CSEによるP-gp阻害効果を確認した.A549/P-gp細胞は,肺胞上皮細胞におけるP-gpの発現・機能に及ぼす薬物や生体異物の長期的な影響解析のための新たなモデルとして有用であり,今後さらにこの細胞を用いて研究を深めたいと考えている.

 

[Regular Article]

カルベジロールの立体選択的代謝に関与するCYP分子種の定量的評価におけるsubstrate depletion assayの応用

Iwaki, M., et al., pp. 425-432.

 ラセミ体で使用されるβ-アドレナリン受容体拮抗薬カルベジロール(CAR)は,両エナンチオマー間で薬理学的および薬物動態学的に立体選択性認められ,その代謝においてはCYP2D6をはじめ,CYP1A2,CYP2C9,CYP3A4など複数のCYP分子種が関与していることが報告されている.しかしながら,両エナンチオマーに対してどのCYP分子種がどの程度寄与しているかの定量的情報は乏しい.また,CARは複数の代謝物を生成するためその評価は困難である.今回,substrate depletion assay法を用いることにより,CAR代謝にはCYP1A2,CYP2D6,CYP3A4が主に関与しており,S-CARではCYP1A2が,R-CARではCYP2D6が大きく関わっていることを示した.本法は複数のCYP分子種が関与する薬物の代謝に対する遺伝的多型の影響を評価するのに有用であると考えられる.

 

[Short Communication]

日本人スタチン誘因性筋障害と関連するHLA遺伝子型

Sai, K., et al., pp. 467-470.

 近年,欧米人における解析から,スタチン誘因性横紋筋融解症と関連するトランスポーター等の遺伝子多型やHLA遺伝子型が明らかとされつつある.しかし,日本人におけるこれらの遺伝子型の寄与については不明な点が多い.そこで,我々は厚労省/PMDA,日薬連等のご協力の下で,全国医療機関及び共同研究施設にて研究に同意の得られたスタチン誘因性筋障害の発症例(52例)のゲノムDNAを用いて,3種の候補多型 [SLCO1B1 521T>C (rs4149056), RYR2多型 (rs2819742), GATM多型(rs9806699)]及びHLA遺伝子型を解析し,対照群(健康人2872例またはHapMap日本人データ86例)のアレル頻度と比較した.その結果,3種の候補多型と筋障害発症との関連は有意ではなかったが,新たにHLA-DRB1*04:06との有意な関連が見い出された.これらのことから,日本人のスタチン誘因性筋障害の発症には,欧米人とは異なるHLA遺伝子型の関わる機序の存在が示唆された.なお,この機序の詳細については,更なる研究が必要であるが,本知見が新たな筋障害発症機序の解明につながることを期待したい.