Newsletter Volume 41, Number 1, 2026

受賞者からのコメント

顔写真:齊藤直希

ベストポスター賞を受賞して

東京薬科大学 薬物動態制御学教室
齊藤直希

 この度は日本薬物動態学会第40回年会におきまして,ベストポスター賞という栄誉ある賞をいただき大変光栄に存じます.年会長の山下富義先生をはじめ,日本薬物動態学会関係者の皆様に深く感謝申し上げます.

 抗体-薬物複合体(antibody-drug conjugates, ADCs)は,従来の化学療法薬では成し得なかった「高い細胞傷害効力と低い全身毒性」を両立する治療モダリティとして,がん治療に大きなパラダイムシフトをもたらしてきました.ADCsの有効性および安全性を適切に評価するためには,その体内動態プロファイルに基づく薬効発現機構の詳細な理解が不可欠です.一方で現状は,ADCs薬効発現に影響を及ぼす複数の薬物動態パラメータを素過程として正確に分離評価できていない点が課題として挙げられます.特に,素過程の一つである細胞傷害性薬物(ペイロード)のリソソームから細胞質への脱出機構については,これまで報告例がほとんどありません.国内外で最も汎用されるモノメチルオーリスタチンE(MMAE)はその代表例であり,リソソーム脱出に関する詳細な分子機構は不明でした.本研究では,MMAEの細胞内取り込みにリソソーム膜タンパク質が関与する可能性があることを発見しました.さらにADC曝露試験では,本遺伝子欠損が一部の細胞株に対する殺細胞効果を減弱させることを見出しました.本研究成果は,ADCsの有効性を規定する変動要因について分子機構レベルで理解する重要性を示すとともに,各パラメータの最適化が体内動態に優れたADCsの創出に役立つと期待されます.今回の受賞を励みに,本知見を基盤としたさらなる創薬研究への展開を目指して研究を進めていく所存です.

 本研究は,株式会社ペルセウスプロテオミクスより技術提供を賜り遂行いたしました.また本研究成果の発表にあたり,ご指導いただきました東京薬科大学薬物動態制御学教室の井上勝央教授,岸本久直講師,北里大学薬剤学教室の苫米地隆人助教,東邦大学薬物動態学教室の樋口 慧准教授,東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室の楠原洋之教授,ならびに本研究に尽力いただいた学生の皆様に,この場をお借りして心より感謝申し上げます.