Newsletter Volume 39, Number 1, 2024

受賞者からのコメント

顔写真:矢田浩晃

ベストポスター賞を受賞して

徳島大学薬学部 創薬理論化学分野
矢田浩晃

 この度,日本薬物動態学会第38回年会におきまして「Glucose transporter-mediated transport of newly synthesized creatine analog in human blood-brain barrier endothelial cells」の演題で,栄誉あるベストポスター賞をいただき,誠にありがとうございます.ご審査いただきました選考委員の先生方,並びに日本薬物動態学会の関係者の皆様に心より御礼申し上げます.

 クレアチンは,エネルギー需要が高い脳において,高エネルギーリン酸の貯蔵体として重要な役割を果たします.クレアチントランスポーター(SLC6A8/CRT)遺伝子が欠損したクレアチントランスポーター欠損型脳クレアチン欠乏症(CRT-D)は,血液脳関門(Blood-Brain Barrier; BBB)や神経細胞に発現するCRT機能欠損によって脳神経細胞内へのクレアチン供給が障害され,知的障害やてんかんを呈する疾患です.指定難病であるCRT-Dを根本的に治療するには,特に末梢循環血液から脳実質内への物質輸送の障壁として働くBBBにおいてCRTを介さずにクレアチンを脳内へと補充する治療薬の開発が重要です.そこで我々はヒトBBBにおいて高発現しているグルコーストランスポーター(SLC2A1/GLUT1)に着目し,CRTを介さずに,グルコーストランスポーターをバイパス経路としてクレアチンを脳内に送達させる治療戦略を考案しました.本研究では,クレアチンにグルコースを付加したクレアチンアナログを新規に化学合成し,in vitroヒトBBBモデル細胞を用いたクレアチンアナログの輸送機構を解析しました.本研究を通じて,クレアチンプロドラッグは,BBBの実体であるヒト脳血管内皮細胞において,CRTを介さずに輸送されることが実証されました.さらに,その取り込みには,一部グルコーストランスポーターが関与することを見出しました.今後は,化学合成したクレアチンプロドラッグの薬効解析に展開することで,指定難病CRT-Dに対する治療薬の創製に貢献できるよう,研究に励みたいと思います.

 最後になりましたが,本研究の遂行に際して,ご指導を賜りました徳島大学 立川正憲教授,稲垣 舞助教,並びに猪熊 翼講師にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.