ニュースレター編集委員会より

はじめに

 第37年会が終わって今日で1カ月が経ちました.長引くコロナ禍により3年ぶりのオンサイト開催,学術的な内容の充実度は勿論,年会全般にわたって種々趣向が凝らされており,格別の思いで参加された方も多かったことと思います.私自身は,会場で暫くお会いできていなかった方々に出会う度に,楽しくてつい長々とお話に巻き込んでしまいました.また,年会参加後に体力低下を実感したのも事実です.勝手に総括しますと,色々な意味でリスタートを切れる良いタイミングでの年会だったと思います.次は静岡,そしてハワイですね.国際学会との共催ということもあり,励みに生きて(研究して)行けそうです.

 さて,日本サッカーのワールドカップが終わりました.地元川崎に縁のある選手が多かったこともあり陰ながら応援していましたが,睡魔との戦いでした.複数の強豪国に勝つ活躍もあって日本サッカーの進化やチームとしての強さが語られるとともに,個としての強さを伸ばす重要性も聞きます.チームあってこその個,個あってこそのチーム.これはサッカーに限らず様々な組織に当てはまると思います.そんなことに思いを馳せつつ,今日も学生との議論に熱が入り一日が終わりそうです.

(T.Y.)

【受賞者からのコメント】

  • 学会賞を受賞して(齋藤嘉朗)
  • 創薬貢献・奨励賞を受賞して(佐山裕行)
  • 奨励賞を受賞して(荒川 大)
  • 奨励賞を受賞して(上原正太郎)
  • 奨励賞を受賞して(宮内 優)

【学会 道しるべ】

  • 13th International ISSX Meetingに参加して(佐藤拓海)

【DMPK 47に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」】

  • Fexofenadine 輸送活性に対する OATP1A2 遺伝的変異及びpHの影響
  • ヒト由来のP450酵素と患者血清との相互作用を用いた新規の膀胱がん診断システムの開発
  • ヒト肝キメラマウスにおけるベンズブロマロンの反応性代謝物の生成
  • 灌流血管網をもった腫瘍スフェロイドでのE-セレクチン標的リポソームの組織分布評価

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受賞者からのコメント

顔写真:齋藤嘉朗

学会賞を受賞して

国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部
齋藤嘉朗

 この度,「薬物動態及び安全性に関する予測評価法及びそのための分析法に関する研究」という題目で,日本薬物動態学会・学会賞の栄誉を賜りました.日本薬物動態学会会長の山下富義先生,理事会の先生方,及び学会賞等選考委員会の先生方を始め,関係の諸先生方に心より感謝を申し上げます.また,本賞にご推薦を賜りました,昭和薬科大学教授・山崎浩史先生に厚く御礼を申し上げます.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:佐山裕行

創薬貢献・奨励賞を受賞して

アステラス製薬株式会社 開発研究部門
非臨床バイオメディカルサイエンス システムズ薬理研究室
佐山裕行

 この度は,「創薬・医薬品開発における薬物速度論のシステムズ薬理モデルへの発展的活用」という研究題目で令和4年度創薬貢献・奨励賞を賜りました.栄誉ある賞を受賞することができ,大変光栄に存じます.日本薬物動態学会長 山下富義先生,選考委員会の先生方,ならびに本賞にご推薦くださいましたアステラス製薬株式会社 大石昌代博士,長坂泰久博士に厚く御礼申し上げます.私はこれまでの研究生活の中で一貫して薬物速度論を活用したトランスレーショナル研究に取り組んでまいりました.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:荒川 大

奨励賞を受賞して

金沢大学医薬保健研究域薬学系
荒川 大

 この度,「薬工連携による新規薬物動態評価手法の開発」という題目で奨励賞を賜りました.栄誉ある賞を受賞することができ,大変光栄に感じております.奨励賞に推薦を頂いた金沢大学の加藤将夫先生,並びに日本薬物動態学会の運営に携わる先生方に厚くお礼申し上げます.私は金沢大学の玉井郁巳先生のもとで博士(薬学)を取得後,高崎健康福祉大学の荻原琢男先生のもとでヒト肝細胞の三次元培養系の薬物動態・毒性評価における有用性について研究を行いました.その後現所属の金沢大学に移ってからも,より安全性の高い医薬品創出に貢献することを目的とし,新しい培養工学技術を用いた薬物動態研究を推進してきました.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:上原正太郎

奨励賞を受賞して

公益財団法人実験動物中央研究所
実験動物応用研究部ヒト臓器/組織モデル研究室
上原正太郎

 このたび「シトクロムP450の機能および遺伝的多型に着目した実験動物の薬物代謝能に関する基盤研究」という題目で令和4年度日本薬物動態学会奨励賞を賜り,大変光栄に感じております.私はこれまで,主にシトクロムP450酵素(P450)に着目したヒトと非ヒト霊長類の薬物代謝の種差,P450遺伝子多型を伴う個体差,さらに新規ヒト肝細胞移植マウスの開発と創薬応用に関する研究に取り組んできました.本稿では受賞対象となりましたこれらの研究について紹介させて頂きます.・・・(続きはNLホームページへ

顔写真:宮内 優

奨励賞を受賞して

崇城大学薬学部 衛生化学研究室
宮内 優

 このたび「異種薬物代謝酵素間の機能的相互作用: CYP3A4活性変動の新規機構」という題目で,令和4年度日本薬物動態学会奨励賞という名誉ある賞を賜り,第37回年会において受賞講演を行わせていただきました.ご推薦いただいた東北医科薬科大学名誉教授の永田 清先生をはじめ,選考委員の先生方,実行委員の先生方に深く御礼申し上げます.

 私は九州大学薬学部の学部4年生の時に,故・山田英之先生が主宰された分子衛生薬学分野に配属され,薬物代謝酵素の研究を開始しました.早いもので13年が経ちましたが,諸先生方と同様に,薬物代謝酵素にすっかり魅了されてしまったようです.・・・(続きはNLホームページへ

学会 道しるべ

顔写真:佐藤拓海

13th International ISSX Meetingに参加して

静岡県立大学薬食生命科学総合学府 衛生分子毒性学分野
佐藤拓海

 この度は,2022年9月11日-14日に米国ワシントン州シアトルのThe Westin Seattleで開催された13th International ISSX/24th MDO Meeting(国際薬物動態学会13回国際会議)に参加するにあたり,2022年度若手研究者海外発表支援事業に採用いただき,誠にありがとうございました.日本薬物動態学会会長の山下富義先生,国際化推進委員会委員長の中島美紀先生ならびに選考委員会の先生方に心から御礼申し上げます.

 今回,私は「Development of a strategy to identify and evaluate ligand and indirect activators of rat CAR(ラットCARのリガンド及びインダイレクト活性化物質の同定・評価手法の開発)」という題目でポスター発表を行いました.・・・(続きはNLホームページへ

DMPK 47に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

Fexofenadine 輸送活性に対する OATP1A2 遺伝的変異及びpHの影響

Han, H., et al.

 有機アニオン輸送ポリペプチド (OATP) 1A2はfexofenadine (FEX) をはじめ臨床上重要な薬物の消化管吸収や分布を担っている.また,OATP1A2にはアミノ酸置換を伴う変異型分子種が同定されており,その基質輸送活性の変動が示唆されているが,FEXの輸送活性に対するアミノ酸置換の影響は明らかになっていなかった.一方,OATP1A2の輸送活性はpH依存的に変動し,消化管内のような低pH環境では輸送能が上昇することが報告されているが,FEXの輸送活性に対するpHの影響は明らかになっていなかった.そこでin vitroにおいて,FEX輸送に対する遺伝的変異の影響を調べたところ,Thr668Ser変異体において輸送活性は大きく上昇し,さらに低pH環境により増大した.一方で,pHの影響は同典型的基質のestrone 3-sulfateよりも弱く,基質によってその影響の程度は異なった.今後は,OATP1A2遺伝的変異の臨床的意義について明らかにしていきたい.

[Regular Article]

ヒト由来のP450酵素と患者血清との相互作用を用いた新規の膀胱がん診断システムの開発

Kuwada, H., et al.

 致命的ながんの1種である膀胱がんを克服するには,早期の診断と治療介入が重要です.著者らは,早期の診断を目的としてシトクロムP450阻害アッセイを開発しました.P450阻害アッセイ法とは,炎症および内因性または外因性物質への曝露によって引き起こされる,血清中のP450関連物質の質と量の変化を検出するものです.先の研究から,膀胱がんは,患者のP450発現レベルを変化させることが知られています.そこで,P450阻害アッセイが膀胱がん患者の血清と健康な個人の血清を区別できるかどうかを評価しました.膀胱がんマウスと対照マウスから回収した血清を用いて本アッセイを行ったところ,CYP2A13,CYP2C18,CYP2E1の阻害率に有意差が認められました.さらに,ヒト臨床サンプルを使用した本アッセイの結果は,P450阻害アッセイが0.867~0.950の受信者動作特性 (ROC) 曲線下の領域で膀胱がんを検出できることを明らかにしました.これらの実験結果から,P450阻害アッセイは,将来的に膀胱がんのリキッドバイオプシーの開発に役立つことが示されました.

[Regular Article]

ヒト肝キメラマウスにおけるベンズブロマロンの反応性代謝物の生成

Cho, N., et al.

 Benzbromarone (BBR) による肝障害発現には反応性代謝物生成の関与が考えられている.本研究では,ヒトにおいて生成するBBRの反応性代謝物を明らかにするため,ヒト肝キメラマウスを用い検討を行った.BBR経口投与後のヒト肝キメラマウスにおけるBBRと主要代謝物 (1’位水酸化BBR及び6位水酸化BBR) の血中動態が,ヒト臨床における文献報告と類似したことから,当該マウスがヒトにおけるBBRの血中動態を再現し得ることが示唆された.また,血漿,肝臓及び尿中において,1’,6位水酸化を介して生成する反応性代謝物と,ベンゾフラン環のエポキシ化を介して生成する反応性代謝物が検出された.これら反応性代謝物は,ヒト肝を移植していないマウスと比較しヒト肝キメラマウスにおいて生成量が高かったことから,マウスへ移植したヒト肝酵素により生成した代謝物と考えられた.以上より,ヒトにおいてもこれら反応性代謝物が生成し肝障害発現に寄与する可能性が示唆された.

[Note]

灌流血管網をもった腫瘍スフェロイドでのE-セレクチン標的リポソームの組織分布評価

Chantarasrivong, C., et al.

 炎症組織である腫瘍の血管にはE-セレクチンが発現しています.私達は,E-セレクチンリガンドのシアリルルイスX(sLeX)に着目し,その構造単純化体で修飾したリポソーム製剤による腫瘍血管ターゲティングを試みてきました.しかし,マウス固形腫瘍モデルでの体内分布や腫瘍増殖実験では,通常のリポソームとの明確な差がみられません.それは,固形腫瘍モデルではEPR効果の影響が強く出るからです.そこで,マイクロ流体デバイスを設計して,灌流血管網をもった腫瘍スフェロイドをチップ上に構築し,sLeX mimic修飾リポソームの動態を評価することを計画しました.HUVECを3D培養するとチューブを形成します.これを利用して,腫瘍スフェロイドと動・静脈マイクロチャネルとをHUVEC血管網で連結させました.蛍光標識したリポソームを動脈流路に添加して流すと,sLeX mimic修飾リポソームでは血管に集積する様子をリアルタイムで観察できました.

標識体合成から創薬・開発申請まで【株式会社ネモト・サイエンス】
新たな挑戦 動物からヒトへ【積水メディカル株式会社創薬支援事業部】