Newsletter Volume 35, May, 2020

日米合同薬物動態学会

写真:吉成浩一

Symposium 7: Nuclear Receptors in Drug Discovery and Development

静岡県立大学薬学部 衛生分子毒性学分野
吉成浩一

 核内受容体は低分子応答性の受容体型転写因子であり,その種類や機能,活性化物質は多様です.薬物動態学領域では,PXR,CAR及びAHRが酵素誘導に関わることが有名ですが,核内受容体はそれ以外にも様々な生体機能を調節しています.そのため,安全性や創薬標的としての観点からも基礎研究が進められています.

 ダイオキシンの受容体でもあるAHRの活性化は,一般的に毒性発現と関連すると考えられていますが,近年,その活性化は臓器特異的に抗炎症作用・抗腫瘍効果を示すことが報告されています.金井隆典先生(慶應義塾大学医学部)のグループは,AHR活性化物質として知られるインディルビン(インドールアルカロイドの1種)を含む生薬であり,染料としても用いられている青黛(せいたい)が,潰瘍性大腸炎の治療に有効であることを見出し報告しています.本シンポジウムでは,金井先生に臨床と基礎の両面から研究成果をご紹介いただきます.

 CARの活性化は,齧歯動物では酵素誘導だけでなく肝がんを誘発しますが,この肝発がんには種差があり,ヒトへの外挿性はないと考えられています.しかし,その分子機序は明確になっておらず,本当に外挿性がないのか否かは,医薬品等の新規化学物質の開発時にもしばしば議論となります.本シンポジウムでは,CARを介した肝発がんの分子機序とその種差に関する最近の知見を吉成が紹介します.

 脂肪酸代謝の調節因子であるPPARαは,フィブラート薬の標的であり,血中中性脂肪レベル低下作用を示します.一方で,CARと同様に齧歯動物特異的に肝発がんを引き起こすことも知られています.また,近年大腸がんを抑制する可能性も報告され,新たな創薬標的の可能性もあります.そこで,核内受容体研究の第一人者であるFrank Gonzalez博士(米国NCI/NIH)にPPARα研究の最新の成果をご紹介いただきます.

 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肝がんの主要な原因疾患となっており,その治療薬の開発が精力的に進められています.近年,肝臓や小腸で高発現し,生体内の胆汁酸レベル調節因子であるFXRの活性化がNASHを改善することが示され,FXRアゴニストのNASH治療薬としての臨床開発が進められています.本シンポジウムでは,Changtao Jiang博士(北京大学医学部)に創薬標的としてのFXRについて最新の研究成果をご紹介いただきます.

 以上本シンポジウムでは,薬物動態,安全性及び創薬研究の標的としての核内受容体について,最近の基礎研究成果が紹介されます.多くの皆様のご参加をお待ちしています.

Symposium 7: Nuclear Receptors in Drug Discovery and Development

Co-Chairs: Kouichi Yoshinari of School of Pharmaceutical Sciences, University of Shizuoka, Shizuoka, Japan and Frank Gonzalez, Laboratory of Metabolism, Center for Cancer Research, National Cancer Institute, NIH, Silver Spring, Maryland, USA

  • AhR Agonists in the Treatment of Inflammatory Bowel Disease
    Takanori Kanai, Department of Gastroenterology and Hepatology, Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan
  • PXR and CAR in Drug Safety: Studies in Human Liver and Animal Models
    Kouichi Yoshinari, School of Pharmaceutical Sciences, University of Shizuoka, Japan
  • Role of Nuclear Receptors in Endobiotic Metabolism and Metabolic Disease
    Frank Gonzalez, Laboratory of Metabolism, Center for Cancer Research, National Cancer Institute, NIH, USA
  • FXR as a Drug Target: New Mechanisms to Target FXR in the GI Tract
    Changtao Jiang, Department of Physiology & Pathophysiology Peking University, China