Newsletter Volume 32, Number 2, 2017

DMPK 32(2)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」

[Regular Article]

全身曝露および非臨床データを基にした,鎮静性および非鎮静性ヒスタミンH1受容体拮抗薬のヒト中枢における占有率予測

Kanamitsu, K., et al., pp. 135-144.

 中枢の受容体やトランスポーターをターゲットに薬剤を開発する場合,臨床試験ではターゲットの占有率をPET (positron emission tomography)で評価することが多いが,被曝量やプローブ合成の手間などの理由で,占有率の時間推移を細かく取得することは難しい.しかも化合物によっては血漿中濃度のTmaxが必ずしも占有率のTmaxになるとは限らないので,薬効または副作用の予測を目的に被験薬がどの程度ターゲットを占有するか検討する場合,どのポイントで占有率を取得すべきか悩まされる.本研究では,ヒトにおける被験薬の血漿中濃度推移・非臨床試験・ヒトin vitroデータを統合したモデルを作成し,ヒスタミンH1受容体占有率の時間推移を予測することを目的とした.実データとの比較により,作成したモデルで予測可能か確認できれば,最大占有率が得られるのは何時間後でどの程度か?他の受容体への影響は?薬物間相互作用による影響は?といったことも推察することが可能であると期待している.

 

[Regular Article]

テアフラビンの細胞内取り込みに対するOATP2B1の寄与

Kondo, A., et al., pp. 145-150.

 紅茶は世界で水に次いで多く摂取されている飲料であり,紅茶に含まれるポリフェノールであるテアフラビンは,抗酸化能などを有し,健康効果が期待される食品成分である.

 本研究ではテアフラビンの輸送に,小腸に多く発現しており,スタチンなどの臨床上重要な薬物の吸収に関わるトランスポーターであるOATP2B1が関与している事を明らかとした.

 テアフラビンは,in vitroでは様々な効果が明らかとなっている化合物であるが,その体内動態は未だ明らかになってはおらず,ヒトにおいても同様な効果が得られるか否かについては今後の検討課題の一つである.本研究で明らかとしたテアフラビンの輸送に関する知見は,テアフラビンの体内動態,特に吸収過程の機構を解明する一助となると考える.

 今後はin vivoでの検討を行い,ヒトにおけるテアフラビンの体内動態を明らかとし,機能性食品成分としてのテアフラビンの適正使用を図るための一助としていきたい.

 

[Regular Article]

ラット胎盤トロホブラスト細胞でのfluorouracil輸送におけるENT2の関与

Takagi, A., et al., pp. 151-156.

 Fluorouracilの細胞膜透過を担う輸送体としてequilibrative nucleoside transporter (ENT)が挙げられる.ENT1とENT2の両サブタイプがfluorouracilを基質とするが,膵臓がん細胞におけるENT1の発現量がfluorouracilへの感受性と相関するとの報告など,これまではENT1の役割に焦点を当てた研究が主であった.我々は,ENT1とENT2の両方がヌクレオシド輸送に関与することが明らかな胎盤トロホブラスト細胞株において,fluorouracil輸送機構を解析した.その結果,fluorouracilの取り込み輸送にENT1の関与は認められず,大部分はENT2を介することが明らかとなった.発現系を用いた解析でも,ENT2を介したfluorouracil輸送活性は,ENT1と比較して著しく高いことが示された.本結果は,fluorouracilの胎盤透過におけるENT2の関与を示唆するだけでなく,広くfluorouracilの細胞膜透過過程において着目すべきはENT1よりもENT2であることを表している.今後,fluorouracilの体内動態やがん細胞でのfluorouracil感受性に対する細胞膜透過過程の影響を明らかにする上で,ENT2により焦点を当てた研究が望まれる.

 

[Regular Article]

インスリンによるヒト腸細胞株Caco-2細胞のOrganic anion transporting polypeptide 2B1 (OATP2B1)基質輸送の促進

Kobayashi, T., et al., pp. 157-163.

 Organic anion transporting polypeptide 2B1 (OATP2B1)は腸内の主要な取り込みトランスポーターであり,臨床で使用される様々な薬物を基質として認識することが知られている.本研究では,ヒト腸細胞株Caco-2細胞において,インスリンによりOATP2B1の膜発現,および,基質輸送が促進されることを明らかにした.この基質輸送の促進作用はインスリン除去後も持続することが確認され,また,Transwellを用いた透過実験においても,インスリンのBasal側への添加によりOATP2B1基質の透過が促進された.上記の結果から,個体レベルにおいてもインスリンが小腸OATP2B1の基質薬物輸送変動を引き起こす可能性が考えられる.今後はin vivoで検討することで,今回観測されたinsulinによる促進作用が生体におけるOATP2B1薬物の消化管吸収にどの程度影響を与えるか否かについて明らかにしていきたい.